書に耽る猿たち

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『孤独の発明』ポール・オースター/孤独でないと物語は書けない

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『孤独の発明』ポール・オースター  柴田元幸/訳

新潮文庫  2020.1.6読了

 

末に読んだ『ムーン・パレス』に次いで、オースター2作目である。本作品は、作家として名を馳せる前に書かれたもののようで、初期の作品と言える。この物語は大きく2部構成になっている。

は元々、ある人物の過去や生い立ちをなぞるシーンが好きである。2部構成の前半は「見えない人間の肖像」というタイトルで、亡くなった父親の家を整理しながら、父親が本当はどんな人物だったのかを探っていき説明するような印象だ。オースターの自伝に近いのか?と思いながら読み進める。父親の父親(つまり祖父)が大きな鍵となるのだが、事件を紐解くような感覚でスリルもある。自分は全く父親のことを理解していなかったのだと判然とする彼。結局は分かり合えないのだが、少しだけ、わかったような気になり前半は幕を閉じる。

半は「記憶の書」というタイトルだが、前半と全く違う展開なため、いささか面喰らった。なんというか、出来事を記録に留めているような、作家であれば、作品のネタ集めとして赴くままに書き留めたような文章だ。オースターの頭の中を断片的にのぞいているような感覚ともいえる。正直、前半が面白すぎたため、展開の変化につまずきつつ読み進めるしかなかった。多分、オースターが好きな人でないと、しんどくて読めないかもしれない。これが前半部なら途中で投げ出す人もいるだろう。

度読んだだけでは理解することが難しい。柴田さんの訳者あとがきによると、この作品の1番大事な意味は、「孤独が発明する。底なしの孤独に身を置き、世界から遠く隔たることによって、A(オースター、または無数の人?)は世界によって豊かに書かれる」とある。作家は、孤独によってしかモノを書けないということだろうか。

れにしても、柴田元幸さんの訳は素晴らしい。ポール・オースターが私のお気に入り作家の仲間入りをしたが、柴田さんの訳があってこそだと思う。刊行されてから気になっている柴田さんが訳した『ハックルベリー・フィンの冒けん』やはり、買おうかしら。

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