書に耽る猿たち

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『パトリックと本を読む 絶望から立ち上がるための読書会』ミシェル・クオ/誰かと一緒に本を読む

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『パトリックと本を読む 絶望から立ち上がるための読書会』ミシェル・クオ 神田由布子/訳

白水社 2020.8.20読了

 

は読書が大好きでもはや日常の一部となっているが、いわゆる「読書会」というものに参加したことはない。読書は自分が好きな時に、好きな本を、好きなだけ、好きなように楽しむものだと思っているから。だけど、今流行っている「読書会」に多少なりとも興味がある。本好きが集い、どんなふうに意見を交わし合っているのか、自分とは異なる角度からの新鮮な感想を聞いてみたいと思う。

の本はサブタイトルに「読書会」とあるが、日本で流行りの「読書会」ではない。そもそも海外にも同じように読書会ってあるのかな?この本で言うところの読書会とは、ミシェルさんとパトリック(著者以外の登場人物はプライバシー保護のため別名)が拘置所で2人で行った読み書きのこと。絶望から立ち上がるためには、もちろん色々な手段がある。本を読むことで希望を見出せるのは何て素敵なんだろう、と書店に平積みされたこの本に惹かれた。

湾系アメリカ人の著者ミシェル・クオさんは、元教師で法律家である。実際に体験したことを記録として留め、10年以上かけてこの本にした。この手の本にしては結構分厚いのだけれど、芯の強い彼女の胸の内が女性らしく優しい文章に表れ、また訳文もこなれていてとても読みやすかった。

たり前のように本を読んでいるが、誰しもが最初から読めるわけではない。まずは字を覚え、声に出し、文法を理解し、言葉の意味を知ること。そして想像する。はじめは1人では出来ず「誰かと一緒に読む」という行為をしていたんだと思い出した。

レナという街で教師となったミシェルさんは、パトリックと出逢う。感性豊かで努力家の彼に才能を見出だす。しかし、ミシェルさんは教師を辞め弁護士を目指してロースクールに行く。数年後に、パトリックが殺人を犯したと知り、いてもたってもいられず拘置所に会いに行く。かつての姿を失ったパトリックを見て愕然とするが、彼を助けるために再度本を通して関わっていく。パトリック更生までのあれやこれや、公判までの道のりなど書かれているが、これは著者ミシェルさんの成長物語だと思う。

となっては自分の職業にすることはできないが「先生」は本当に素晴らしい仕事だと思う。生徒を教えることで、自分自身ももっともっと成長出来るから。それでも、学校の先生だけが「先生」ではない。誰かに何かを教えたり諭すことで、先生と同じように成長出来ると思う。だから、どんな分野でもいいから人に何かを伝えること、教えること、開放することはとても大事だ。

シェルさんはパトリック1人に、誠心誠意をかけて行動したが、それはきっと、心配だからとかなんとか更生して欲しいと願う心だけが理由ではないと思う。自分の人生において強烈な結びつきを持つ、両親、兄弟、配偶者、友達と同じように、1人の人間として魅かれたからだ。

述からもわかるように、ミシェルさんはおそらく、見た目は私たちとそんなに変わらないアジア人だ。アメリカで生活するには、やはり人権問題・貧困問題が常につきまとう。これからも、この問題がなくなることはないだろうけれど、じわじわと個人の考え方は変化していると思うし、皆が考えるべきことだ。

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