書に耽る猿たち

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『時々、慈父になる。』島田雅彦|ミロクくんと一緒にお父さんも成長する

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『時々、慈父になる。』島田雅彦

集英社 2023.7.5読了

 

3年ほど前に島田雅彦さんの自伝的小説『君が異端だった頃』を読んだ。自身のことを「君」として、いささか(というかかなり)自己愛・自信に満ちた語りが島田さんらしかった。今回の自伝的小説は一人息子との関係をメインに炙り出したものだ。写真ではわかりづらいと思うけど、このカバーの色がとても素敵。朱色に近いがなんともいえない鮮やかな色で燃える魂を予感させる。

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子の名前は彌六と書いて「ミロク」と読む。名前をどうやって決めたかのあれやこれやは本の中に書いてあるが、ミロクくんって縁起も良さそうだしゴロも良い。どこかで聞いたことあるなと思ってたら、女子アマチュアゴルファーの弥勒ちゃん。まだ小学生かな?小さい頃からビッグマウスで表情もおもしろかったが、最近TVに出ていたのを見たら女の子らしくなっていた。ミロクには「未出現の仏」の意味があり、大きくなったミロクが死のはかなさ・寂しさを感じる「形而上学的不安」を抱えていたことに気づく島田さんが滑稽だった。

 

子のミロクくんの子育てにまつわる話がおもしろおかしく書かれている。言語の習得化の過程や、習いごとの数々についてなど、当時細かく日記に記していたんだろうなと思うほど細やかで、実際に子育てをしているイメージが鮮やかに浮かび上がる。島田さんはお父さん感があまりなかったけど、こうして読むとちゃんと子育てしていてたんだなぁ笑。

 

み仲間でもある友人の建築家竹山聖さんに設計を依頼して建てたという自宅がとても気になる。コンセプトは「アジアのバラック」。ひょんなことから何からの事情で出荷されなかった大理石や御影石、化石入りのボテチーノなどを無料で譲り受け、石に恵まれたという。どんな家なのか見てみたい。

 

藤明生さんや平野啓一郎さんとはとても仲が良い反面、石原慎太郎さんとは犬猿の仲だったようで、芥川賞選考委員で一緒になった時には一悶着あったようだ。そういう文壇のあれこれもオブラートに包まずにあけっぴろげなところもまたおもしろく読めた。

 

念を曲げない異端児でありつづける島田さんは、この作品でも健在だった。前作の『君が異端だった頃』は前半30年、今回の『時々、慈父になる。』は後半30年の人生の軌跡をまとめた形になっているようだ。これからも島田さんの小説は読み続けていくし(自分の読者が少ないと言っているが、そんなことはない。これだけ長く続けていられるのは固定の読者がたくさんいる)、これからの30年も、いつか私小説として書くのを心待ちにする。

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