書に耽る猿たち

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『水車小屋のネネ』津村記久子|身の回りの人に寄り添うこと、親切にすること

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『水車小屋のネネ』津村記久子

毎日新聞出版 2023.5.14読了

 

ネというのは、ヨウムの名前。ヨウム?オウムじゃなくて?とほとんどの人が思うだろうが、「ヨ」ウムらしい。オウムの種類のひとつで尾羽が赤い灰色の鳥である。水車小屋では、川の流れる力を水車に伝えて、小屋の中の白臼を動かしている。臼にそばの実を入れることでうまくそば粉が挽ける。そばの身がなくなると、ネネは「からっぽ!」と教えてくれる。空焚きをしないようにネネが見張り番をしてくれるのだ。

 

18歳になる姉の理佐と8歳の妹の律は、母親とその再婚相手との生活に上手く馴染めず、理佐の高校卒業を機に家を出て2人で暮らすようになる。そこで住居付きということで見つけたのが、蕎麦屋を手伝いながらネネの世話をする仕事ことだった。4章にわかれた構成で、約40年の2人の暮らしぶりが優しく丁寧に書かれている。読み終えるとあたたかい気持ちになれるとても良い作品だった。

 

の友達である父子家庭の寛美。ピアノの発表会の洋服をお父さんと買いに行ってもなかなか決まらず、母親がいないから女の子らしいことを何もしてやらないと悩むお父さんの姿に涙ぐみそうになったし、それらの悩みを理佐と律に相談するなど身近な人と支え合うことの大切さを噛み締める。

 

中にいくつかの映画の名前が出てきて、メモメモ…。『グロリア』をはじめとして『ザ・セブン・アップス』など色々とおもしろそうな映画に興味を覚える。また、音楽も色々と出てくる。レッチリやらU2やら洋楽を中心として懐かしい音楽がずらりと並ぶ。

 

その時聡が感じたのは、他人の来し方を耳にすることの気詰まりさではなく、本当のことだけを話してくれるとわかっている人と接する時の不思議な気楽さだった。(273頁)

手が「本当のことを話している」とわかること。これってなかなか難しい。この感性が通じる人は信頼できる。少し前に「他人を容易く信じるなかれ」的な出来事が私の身の回りで起きていたから、ずっしりと身にしみた。

 

んなに良い人ばかりで人生が固められているはずはない、もっと母親とのことで泥臭いことがあるはずなのに、と思わないでもないが、この作品はそういうものを排除してこそ活きてくる。地域の人にもっと寄り添うようにして生きること、他人に親切にすることが自分の人生を豊かにする。

 

村さんの小説は元々読みやすいが、独特のからりとた文体が特徴である。ちょっとした理屈っぽさと冷めた感が好きだったりもするのだが、この作品にはそういうものがない。というのも、これは毎日新聞に連載されていたものだから万人に読みやすくしているのかもしれない。

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