書に耽る猿たち

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『狐狼の血』柚月裕子|ガミさんの男意気と生き方

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『狐狼の血』柚月裕子

角川文庫 2021.8.15読了

 

性なのに、よくこんなヤクザ&警察もの書けるよなぁと尊敬する。警察ものはわかるけど、暴力団の話って言葉も特殊で難しいと思う。取材するわけにもいかないし。広島弁も巧みで、特にガミさん(呉原東署暴力団班長:大上)のキャラクターは抜きん出ている。

事になりたての日岡秀一は、広島県呉原市呉原東署(架空の都市)に配属となる。コンビを組むことになったのは敏腕刑事である大上だ。大上は、暴力団の捜査に関しては超一流だが、暴力団との癒着の噂がある。2人で暴力団が関与している事件について追いかけていくという警察小説である。

のように伝えること自体がネタバレになりかねない(以下を読むかどうかは注意してください)のだけど、、実は途中までは予想通りの展開というイメージだった。しかし終盤に全体の構図が見渡せたときにはあっと驚き、ラストはスカッとする気持ちになった。ガミさんと日岡が一つになるような気がして嬉しかった。こういうラストはとても好きだ。男意気に惚れる。

て、警察にとっての「檀家」とは、事件に繋がりそうな情報を定期的に提供してくれる堅気の人間を指すという。善良な市民は、変わらない日々を送っているからこそ日常のふとした違和感を認識する。これは普段の生活でも結構大事なこと。いつもと自分の食欲やらお腹の具合が違ったら何か体調不良を疑ってみたり、いつも通ってる道が事故で通れなかったら何かを察するべきだったり、まぁそんなこと。

は毎日常に何らかの本(たいてい小説)を読んでいて、いまは文芸雑誌と併読しているのだけど、ちょっと純文学慣れしてきてしまい(少しだけ飽きたのか)、ミステリ・サスペンス系を読みたくなった。実は『狐狼の血』は、役所広司さんと松坂桃李さん主演の映画を観た(といってもテレビで流れていたのを途中から見入ってしまった感じ)から、ストーリーはだいたい知っていた。豪華俳優陣勢揃いで、役所さんの演技はまぁ鳥肌ものだった。

作を読みたかったのだ。さすが柚月裕子さん、ぐいぐい読ませる作品を書く。これまで読んだ柚月さんの小説では一番おもしろかった。常に頭の中には役所広司さんと松坂桃李さんが映像として登場していたけど。来月には第2弾の映画が公開されるようだ。でもこれは柚月さんの原作ではなく、映画向けの脚本になっているらしい。私はこのあと2作続いている原作のほうを読みたい。

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