書に耽る猿たち

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『はつ恋』ツルゲーネフ|初恋なのに冷静さがある

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『はつ恋』ツルゲーネフ 神西清/訳

新潮文庫 2021.9.19読了

 

説の中での初恋の相手は、ほぼ100%美男もしくは美女である。若い頃には内面から人をみることが出来ず、まずは外面から入るから仕方のないことだとは思うけれど、容姿が普通以下という場合がないのかしら…と思ってしまう。

実の世界ではそうとも限らないのに。スポーツマンだったり、クラスでお笑いキャラだったり、優しい話し相手だったりと、初恋の相手は美青年だけではない!と思うのだけれど、男性の初恋の相手は確実に美女だったりかわいい子な気がする。そういう意味では、人を見る目も女子の方がませているのかもしれない。

の作品に登場する16歳のヴラジーミル・ペトローヴィチは、隣に住む公爵の娘ジーノチカに一目惚れする。もちろん例に違わず絶世の美女であり、周りの男性たちも放っておかない。そしてジーノチカは誰にでも高飛車に振る舞い男をもてあそぶ。これもお決まり。

はかなり最初の方でこの恋の行方はどうなるのか(まぁ失恋するのはお決まりであるが)、ジーノチカの恋の相手は誰なのかがわかってしまった。だからストーリーとしてはお見通しだった。

かしヴラジーミルの普通でないところは、自分の独りよがりにならないところ。10代なんて自分の思い通りにいかないと、納得できずわがままに「何故好きになってくれないのか」と相手を問い詰めたり自暴自棄になるもの。それなのにヴラジーミルは初恋とは思えないほど冷静に、「ジーノチカもまた恋をしているのだから」とある意味悟るのである。これもお国柄なのか?

シアの文豪の一人、ツルゲーネフ氏の作品を読むのは初めてだ。奥付を見ると、令和元年10月で104刷とある。これだけの版を重ねて今もなお読まれているのは古典名作であるからだろう。ツルゲーネフ氏自身の自伝的小説であり、この体験は自身の恋愛観に呪縛のようにのしかかったようだ。