書に耽る猿たち

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「西村賢太さん一周忌追悼」田中慎弥さんトークショーに行ってきた

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街区の再開発のため、東京駅八重洲口にある「八重洲ブックセンター」が今月末で営業を終了する。都内では神保町の三省堂書店、渋谷の丸善&ジュンク堂をはじめ、大型書店がまたしてもなくなることに、悲しみを隠しきれない。

 

西村賢太さんが亡くなられて一周忌ということで、3月5日(日)に同書店で追悼イベントが開催された。なんとトークをするのは田中慎弥さん。西村賢太さんももちろんのこと私は田中慎弥さんが大好きで、彼に一目でいいから会いたいなと思っていた。小説自体が好みではあるが、田中さん本人のことがとてもとても気になる。作家としても、男性としても、人間としても。

 

ちょうど東京マラソンが開催されていた日で、冒頭に「早く終わらせるために走る」みたいな話をされていて、のっけから芥川賞受賞時のコメントを思い出して「あぁ、田中慎弥さん節だ」と笑みがこぼれてしまう。トークで盛り上げるイメージが湧かなかったけれど、丁寧に言葉を紡ぎながら独特の佇まいで語る田中さんにくぎ付けになった。

 

基本、あまり前を向かずに斜め下に視線を向けて話していたが、たまに正面に顔を向けた時の鋭い眼光に圧倒された。文藝春秋の担当の清水さんとのぎこちなさげな(これがいつもの感じな気がするけど)会話で、西村さんとの思い出や文学観のようなものを聞けた貴重な時間となった。それにしても、清水さんは魔法使いみたいな服装をしていたなぁ。

 

先日刊行された『蝙蝠か燕か』にちなんだトークショーということで、収録された中篇3作品の内容から始まり、未完の長編『雨滴はつづく』のことにも触れていた。私はどちらもまだ未読だ。貫太(西村さん)のマイナー作家藤沢清造に対する推しを「没後ストーカー」と呼んでいるのがおもしろかった。全集を出そうか出すまいか、終えてしまうのも怖いような、何か堂々巡りをしているようだと話していた。「目標を達成した時の空虚感」は何やらわかる気がする。

 

編集者の方が設定してくれた飲み会の席よりも、新宿のバーで偶然会って飲んだことが多く印象深かったそう。何度も話されていたのが「西村さんとは飲んでいるときには小説についての突っ込んだ話を一切せずに、くだらない話をしていた。それが悪い思い出もなく良い関係を築けた」ということ。西村さんはああ見えて人との距離感の取り方が絶妙だったそう。繊細だったんだろうな。一見あくが強くて付き合いにくそうだけど、多くの人に愛されていたのだとわかる。彼ならではの一流の飲み方のスタイルを貫いて。

 

西村さんは「オファーがあったら新人賞の選考委員をしてもいい」と思っていたのではないか(あくまでも2人の予想)という話も興味深かった。自分よりも後輩で賞をもらいあぐねている作家のことを気にかけていたそうだ。しかし西村さんはお金を飲まないと口が柔らかくならないそうで、、それなら選考委員はそもそも無理だとかなんとか…。たまに会場は笑いに包まれた(大爆笑ではなく、ちらほら笑み)。

 

田中さんが「神の子として間違って産まれてきたのではないか」と思う現代作家として、西村賢太さんと川上未映子さんの名前を挙げていた。西村さんが亡くなったことは本当に残念だが、同じ時代に生まれて同じ文壇の世界に関わることができ、飲み屋でくだらない馬鹿話ができたことに喜び感謝していた。

 

胸の高まり冷めやらぬうちにトークが終了し、その後、まだ読んでいない田中慎弥さんの著作を購入し、サインを入れてもらい満足。そして、八重洲ブックセンターの方に頼んで、ちゃっかりツーショットの写真も撮ってもらい、これまた満足。憧れの人に会えるって本当に嬉しい!これからも、西村さんの分まで良い小説をたくさん書いてくださいな。楽しみにしてます。そうそう、NHKの取材班が入っていて、4月以降に放映される西村賢太さんの番組に使われるそうだ。チェックしておかないと。

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