書に耽る猿たち

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『ポースケ』津村記久子|普通の人たちのただの日常

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『ポースケ』津村記久子

中央公論新社[中公文庫] 2024.08.01読了

 

れ、芥川賞を受賞した『ポトスライムの舟』の続編なのに存在を全く全然知らなった。なんか目立たないよね?書店で何の気なしにふらふらしていたら、津村記久子さんのフェアみたいなものを見つけて手にした。

 

良にあるカフェ兼食事処「食事・喫茶 ハタナカ」を営むのは、34歳のヨシカだ。ヨシカって名字だと思っていたら芳香という漢字で妙に納得。あれ、これ前にも感じたなぁと思ったら、『ポトスライムの舟』に出てきたヨシカさんだった。読み始めて数行で「ポトス」が!もちろん観葉植物ポトスのこと。これで繋がったというか、こういう符号が嬉しい。

 

フェを営むヨシカとそこで働く従業員、そしカフェにやってくるお客さんの日常が綴られた連作短編集になっている。本当に本当にほんっとーに、他愛もない話が続く。たぶん数日経ったら忘れてしまいそうなほどの普通の人たちのただの日々。そんな何の変哲もない日々はある意味美しく尊い。日々の営みの積み重ねこそが人生だし、私自身、究極の幸せは特別な一日でもなくただのつまらない穏やかな毎日なのだと思っている。

 

れもあって、ゆきえとぼんちゃんのあたたかくほのぼのとした暮らしが綴られる『コップと意志力』が一番好きだ。背が低くて子供みたいな服を着ている中学生みたいなぼんちゃん。だけど優しくて一緒にいて楽で落ち着く人。本当は何か大切なことを話さなくてはいけないような気がするのに、どうでもいいくだらない話をただひたすらしてしまう、そんな関係。きっとそれが良いのだ。くだらないことを話せる相手、そういう相手がいることが心地良く幸せなのだ。

 

シカさんを見ていて、自分のお店をやるのってなんかいいなと思った。飲食店でなくてもなんでもいい。人を笑顔にさせることができたり、落ち着くと感じてもらえるようなそんなお店。仕事の究極の幸せは、たくさんお金を稼ぐことではなくて、自分の与えたもので相手の喜びを目の前で感じられることだと思う。

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