書に耽る猿たち

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『失われたものたちの国』ジョン・コナリー|「儚くなる」という表現がいいなぁ

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『失われたものたちの国』ジョン・コナリー 田内志文/訳

東京創元社 2024.08.05読了

 

ァンタジーを単行本で買うことは滅多にないのだけれど、去年読んだ『失われたものたちの本』がめちゃくちゃおもしろくて、「あ!続編出たんだー」と書店で小踊りしてしまった。

 

にまつわるファンタジー、それだけでウキウキする。しかし小説を書く人は当然本が好きなわけで、だから世にある小説は本に関して書かれたものがたくさんあるから「またか〜」と思うこともしばしば。これは、飽きたとか嫌がってるわけではなくて「まぁ、本好きなんだから書きたくなるのは当然だよね」という思い。

 

い娘をひとりで育てていたがセレスだが、ある日娘が交通事故にあい昏睡状態となってしまった。医師の勧めもありセレスは田舎のケア施設に娘を移すことにする。その施設にはいわくありげな古い屋敷があった。娘の看病を続けるうちにセレスは異世界に迷い込んでしまうのだーー。

 

こりやデイヴィッド、ねじくれ男など、『失われたものたちの本』でお馴染みの登場人物が現れる。ラプンツェルのくだりなんて、なんだかにやけてしまう。セレスはどうして自分がこの世界に入り込んでしまったのか。この作品が一風変わっているのが32歳のセレスが主人公だということ。「子供じゃないんだ!」って思った。でも別にファンタジーだからといって子供がメインなわけではないよな。大人が楽しめるファンタジーこそ最高では。セレスは異世界に迷い込むことで、過去の色々な出来事に折り合いをつけ、その大切さを学んでいく。

 

語のなかでは、死ぬことを「儚くなる」と表現している。小さくなったお星様のように。儚いとは、微々たるものだけどなくなってはいないということ。人の死は、決して消えて無くなるわけではない、心の中にはずっとほのかな灯りを灯してくれて生き続けている、そんな意味があると思うからとても素敵な表現だと感じた。

 

レスが終盤に悟る思いにがストンとくる。「悲しみを抱いていても生きていける。しかし怒りや苦しみや後悔を持っていれば、最後には自分の身を滅ぼしてしまう」なるほど、悲しみは誰にでも訪れるし自分ではどうにも抗えない宿命みたいなもの。でも怒り、苦しみ、後悔は、自分の力で変えることができるのだ。

 

者・田内志文さんによるあとがきで、『失われたものたちの本』のことを、作者が一生に一度書けるか書けないかの鬼気迫る迫力がある素晴らしい本だと絶賛しており、だからこそ続編を読むこと、訳すことが不安だったという。その感じは読む私たちにもなんとなくわかる。確かに前作のほうが圧巻だったけど、この続編にもそれなりの良さ(著者が歳を重ねたことによる深みのようなもの)があった。この作品は前作を読んでいないと良さが半減すると思う。よく「これだけ読んでももちろん良いが」という言い回しがあるけれど、この本だけは絶対にダメ。『失われたものたちの本』から読むべし。

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