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『弟、去りし日に』R・J・エロリー|誠実かつ王道のヒューマンミステリー

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『弟、去りし日に』R・J・エロリー 吉野弘人/訳

東京創元社創元推理文庫] 2024.10.17読了

 

作のタイトルは『The Last Highway』であるから、随分と飛躍している邦題だなと思った。弟の訃報を知ったときにヴィクターはハイウェイ(高速道路)に眼をやり、そしてまた、弟の最後(死んだ場所)がハイウェイだったことからこのタイトルなのかなと思っていたら、作中に出てくる「最後の道のり」という言葉に「ラスト・ハイウェイ」とルビがあったから、「道のり」の意味があるのだと理解する。見たこともない作家さん(一見ジェイムズ・エルロイと勘違いした)で期待していなかったこともあるからか、なかなか良かった。秋の夜長にじっくりしみじみと読むのにいい。

 

去に諍いがあり約12年間音信不通だった弟のフランクがひき逃げされて亡くなった。それも車に4回もひかれるという残忍さ。フランクの娘、つまりヴィクターの姪に当たるジェンナから真相を知りたいとせがまれる。このジェンナとの新たな出逢いがその後のヴィクターの生き方を変える。一方でヴィクターは少女連続殺人を追いかけることになる。果たしてこれらに繋がりはあるのか、そして兄弟の過去の確執とその果てにあるものはー。

 

ステリーではあるがヒューマンストーリーである。ハードボイルド系が思いのほか文学的だと発見したときの喜び(レイモンド・チャンドラー作品のような)に近いものがある。そもそも、ヴィクターがちょっとマーロウっぽくあるようなないような。いやいや、あんなにキザですぐに女を口説かないか。

 

ィクターとフランクは州は違えど同じ保安官である。そういえばアメリカの作品に保安官ってよく出てくるけど、警察と何が違うのかというと、保安官は郡を、警察は市を担当しているらしい。市がない郡もあるからそこは保安官。地理的なものを理解していないとよくわからないけれど、何しろ敵対しているような感じを受ける。

 

メリカでは色々な州が絡んでいる事件であればFBIの手に委ねることになるらしい。FBIって日本でいう公安で花形エリートのイメージがあるが、やはり関係性は微妙。アメリカは死刑制度をはじめとして州によって法律も異なるから、色々とややこしいな。

 

場の仲間は本当に大事だ。保安官補マーシャルの機転の良さとさりげない優しさ。また、有能な事務員バーバラのお節介さ。バーバラとの別れ際のくだりには毎度毎度ウィットに富み、それでいてほんわかして笑みもこぼれる。

 

との過去に踏ん切りをつけ、自身の再生を問う物語であるわけだが、兄弟姉妹ってよくよく考えたら生きている期間を過ごすのが一番長い血筋の人だ。もちろん何らかの理由で死別しない限り。親よりも子供よりも、添い遂げることを決めた相手よりも、誰よりも自分と共に生きる時間は長い。だからできれば良い関係でいたいものだ。

 

の読書週間に「海外ミステリーでも読もうかな」なんて思っている人にはもってこいの作品かと思う。誠実で王道なミステリーではあるが、実はみんなが求めているものってこういう作品なんじゃないかな。少し前にdadadada…の鈍器本を読んでいて先週は毎日あれを持ち歩いていたから、文庫本であることだけで「もう最高かよ」という気分だった。

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