
『灯台からの響き』宮本輝
集英社[集英社文庫] 2026.08.22読了
灯台とは、船舶の安全のために光を発し海からの目印となるものだ。灯台と聞くとウルフ著『灯台へ』が思い浮かぶが、かなり前に外国人作家が書いた『灯台守の話』という小説を読んだ記憶も残っている。昔は一つ一つの灯台に見張りというか住み込みで見守りをする人がいた。日本では今は全て無人化されているそう。
妻に2年前に先立たれた62歳の康平は、中華そば屋「まきの」を閉めて引きこもりのような生活を送っていた。ある日、灯台の絵が描かれた妻宛の絵葉書が本に挟まれているのを見つける。この葉書の差出人のこと、妻の過去を知りたいと思い、各地の灯台巡りをしながら、生きることの意味を見出していく。宮本輝さんらしいド直球のあたたかいストーリーだ。
困っちゃうな…。作中に出てくる小説はいつも気になって仕方なくなる。ただでさえ、読む本が渋滞しているのに。森鴎外さんの『渋江抽斎』をすぐにでも読みたくなった。
自分を調べるというのが、最も難しいはずだ。自分を取り巻く真実には、他人に知られたくない事項がいくつかあるものだ。俺はそれを隠したくて、改竄し、捏造するだろう、それでは鴎外の『渋江抽斎』とは違うものになってしまう。(69頁)
なるほど、自伝というのが一番真実に近いと思っていたが、実はそういうわけではない。改竄したり大袈裟にしたり隠したりしてしまうことが誰にでもある。人に読まれることを想定していない日記でも多少はそういうことがあるかもしれない。それに対して評伝であれば隠すことはない。でも他人が考える像もまた真実かわからない点もあるだろうし、難しい。康平は妻の過去の秘密めいたものを調べようとする。物語が終わる頃には、誰にでも秘密というか人には知られたくない、胸に潜めておきたいものがあるから全てを明らかにしなくても良いものだと悟る。
先月宮本輝さんの『骸骨ビルの庭』を読んで、抜群の安定感と読み終えた時のあたたかな気持ちにホッとして、こちらの作品を手にした。精神の安定のためにも半年に一冊は読むといいかもな。次は何を読もう、いやまずは『渋江抽斎』だな。早速書店で手に入れた。