書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2023-06-01から1ヶ月間の記事一覧

『くもをさがす』西加奈子|大切なのは自分の身体と心を愛おしく思うこと

『くもをさがす』西加奈子 河出書房新社 2023.6.26読了 『夜が明ける』が刊行された少しあと(私自身も読み終えたあと)に、NHKの「ニュースウォッチナイン」で西さんがインタビューを受けているのを観た。顔がちっちゃくてキュートで、なによりも芯が強いと…

『大江健三郎自選短篇』大江健三郎|人間の生きる目的とは。目指すところは「死」

『大江健三郎自選短篇』大江健三郎 岩波書店[岩波文庫] 2023.6.25読了 ポルトガル作家ジョゼ・サラマーゴさんが亡くなった時は国葬だったらしい。どうして大江健三郎さんが亡くなった時には国葬にはならなかったのだろう、とポル語訳者木下眞穂さんは思っ…

『忘却についての一般論』ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ|新鮮で楽しい、詩的で美しい

『忘却についての一般論』ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ 木下眞穂/訳 白水社[エクス・リブリス] 2023.6.20読了 アンゴラという国があることは知っていたが、それが何処にあるかも、どんな国なのかも意識したことがなかった。アフリカ大陸の南西部に…

『正欲』朝井リョウ|正しさ、多様性、居心地の良さ 不安と葛藤し生きていく

『正欲』朝井リョウ 新潮社[新潮文庫] 2023.6.19読了 自分にとっての「正しさ」とは何だろう。「正しい」といっても、それは全員にとってひとくくりに正しいということではないし、正しさが正解とも限らない。多数派が少数派よりも正しいというわけではな…

『HHhHープラハ、1942年』ローラン・ビネ|ビネ自身が主人公で、実況中継するかのよう

『HHhHープラハ、1942年』ローラン・ビネ 高橋啓/訳 東京創元社[創元文芸文庫] 2023.6.17読了 本屋大賞翻訳小説部門を受賞したというのが納得できるおもしろさだった。パラパラと頁をめくると、細かい文字がびっしりと埋められ(東京創元社の文庫だし…

『世界でいちばん透きとおった物語』杉井光|タイトルが意味するものは・・・!

『世界でいちばん透きとおった物語』杉井光 新潮社[新潮文庫nex] 2023.6.13読了 この段落だけは、この本を読む前に書いている。私は「透きとおった」という言葉に何かヒントがあるんじゃないかと思った。「透明な」でもなく、変換して出てくる「透き通った…

『パワー』ナオミ・オルダーマン|自分が強者になると、傲慢になり優位に立つようになる

『パワー』ナオミ・オルダーマン 安原和見/訳 河出書房新社[河出文庫] 2023.6.12読了 女性の身体に突然変化が生まれる。スケインと呼ばれる器官が突然生じて、指先から電流が流れるようになる。その電流を自由に操れるパワーが宿った女性たちが、男性より…

『街とその不確かな壁』村上春樹|自分だけのとっておきの幻想世界|読んだ人にしかわからない満足感

『街とその不確かな壁』村上春樹 ★★ 新潮社 2023.6.10読了 濡れたふくらはぎに濡れた草の葉が張り付き、緑色の素敵な句読点となっていた。 読み始めてすぐ、7行めに出てくる文章である。裸足で水の上を駆ける少女のふくらはぎが濡れてそこに葉っぱやらが引っ…

『サル化する社会』内田樹|専門分野は独立しているわけではなく全てに繋がっている

『サル化する社会』内田樹 文藝春秋[文春文庫] 2023.6.6読了 内田樹さんが「なんだかよくわからないまえがき」と題している前書きで、今の日本社会では「身のほどを知れ、分際をわきまえろ」という圧力が行き渡りすぎていると言っている。身の程を知れ、と…

『ペストの夜』オルハン・パムク|疫病と人類の戦い|空想画を描ける人は物語る力がある

『ペストの夜』上下 オルハン・パムク 宮下遼/訳 早川書房 2023.6.5読了 月曜日の深夜に『激レアさんを連れてきた。』というTV番組があって、その中で「架空の駅を1万個以降考えた人」が紹介されていた。その人は駅周辺の地図やらをプロかと見まごうほどの…

『モイラ』ジュリアン・グリーン|運命の女モイラ、そして青年たち

『モイラ』ジュリアン・グリーン 石井洋二郎/訳 岩波書店[岩波文庫] 2023.5.30読了 信仰心の篤い赤毛のジョセフは、ミセス・デアの家に下宿することになり、ここから大学に通う。このジョセフという主人公がまた独特の人物だ。極度の潔癖というか、真面目…

『はだしのゲン』中沢啓治|戦争のむごさを知るべき|どんな境遇にもめげない力強さと揺るぎない信念

『はだしのゲン』1〜10 中沢啓治 汐文社 2023.5.28読了 漫画を買うことも読むことも10年ぶり位だと思う。子供の頃はそれなりに読んでいたが、いつしか小説の方に偏向していまい今に至る(なんせあの『鬼滅の刃』すら1冊も読んでないのだ)。この『はだし…