書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

国内(あ行の作家)

『ゲームの王国』小川哲/洞察力に優れた登場人物に魅せられる

『ゲームの王国』上下 小川哲 ★ ハヤカワ文庫 2020.1.1読了 いつも帯に騙されるから、大きな期待はせずに(でも新聞やネットで絶賛されているから少しだけ期待)いたけれど、本当にすごい才能の方が現れたと私も思った。そもそも私自身、個人的にSFに苦手意…

『幻夏』太田愛 / 冤罪によるその後の人生

『幻夏』太田愛 ★ 角川文庫 2019.12.17 読了 先月読んだ『犯罪者』シリーズの2作目である。1作目を読んだのが1か月前だし、その後家族に貸して本についても会話をしたからか、内容はほぼ鮮明に覚えている。今回の話は、交通課刑事、相馬に視点をおいた物語だ…

『犯罪者』太田愛 / 脚本家が小説を書くとこうなる

『犯罪者』上下 太田愛 ★ 角川文庫 2019.11.14読了 最近、文庫本に掛けてある本の紹介帯が本全体を覆うようになっていて、カバーが二重になっているようなものをたまに見かける。出版社が作っているものもあれば、書店独自のものもあるようだ。私は全面を覆…

『オーガ(ニ)ズム』阿部和重 / 阿部ワールド全開

『オーガ(ニ)ズム』阿部和重 文藝春秋 2019.11.2読了 阿部さんの新刊は読む前から楽しみ過ぎる。しかも神町シリーズなんて。分厚くて重くて持ち歩くのが大変だけど、期待を胸に込めて、さて読むぞ!と読み始める時のウキウキ感が半端ない。こういう気持ち…

『渦 妹背山婦女庭訓魂結び』大島真寿美 / もっと浄瑠璃の世界にいざなえたまえ

『渦 妹背山婦女庭訓魂結び』 大島真寿美 文藝春秋 2019.9.26読了 第161回直木賞受賞作。大島さんの名前は初めて知った。と、カバー裏表紙を見たら、過去の小説に『ピエタ』とあった。あ、この作品は書店に並んでるのを見たことがある。読んでない作品でも見…

『罪の轍』奥田英朗 / 現代だからこそ読むべき昭和のミステリ

『罪の轍』奥田英朗 ★ 新潮社 2019.9.19読了 頁をめくる手が止まらない、だけどじっくり読みたい、そんな読み応えのある小説だった。奥田さんの作品は、『最悪』、『邪魔』、『オリンピックの身代金』は良かったのだが、それ以降は筆力が落ちてしまったのか…

『燃えあがる緑の木』 大江健三郎 / 魂のこと。魂は人の心に居続ける

『燃えあがる緑の木』 大江健三郎 第一部 「救い主」が殴られるまで 第二部 揺れ動く(ヴァシレーション) 第三部 大いなる日に 新潮文庫 2019.8.21読了 たまに、大江さんの小説が読みたくなる。読み始めて、あぁ、やはり難しいな、とか、よくわからないな、…

『ビビビ・ビ・バップ』 奥泉光 / あり得そうな未来のお話

『ビビビ・ビ・バップ』 奥泉光 講談社文庫 2019.8.10読了 いつも思うのだが、未来を描くディストピア小説を書く人の頭のなかはどうなっているんだろう?不思議なことこの上ない。現代ものは特段問題ないのは言わずもがな、歴史小説なら過去の文献を調べたり…

『不時着する流星たち』 小川洋子 / ストーリーには必ずモデルがある

『不時着する流星たち』 小川洋子 角川文庫 2019.8.1読了 小川 洋子さんの小説は繊細だ。長編小説でもそうだが、短編であればなおさら、丁寧に扱わないと壊れそう。小説が、本が、壊れるという表現はおかしいのに、何故だかそう思わせる。 この短編集は、そ…

『東京プリズン』 赤坂真理 / 平成の30冊に選ばれたらしい

『東京プリズン』 赤坂真理 河出文庫 2019.3.27読了 ほとんどが最終章のためのお膳立てのようだ。いくつかの時代と虚構が行ったり来たりして、迷子になりながら読み進めていく。文章はすっきりとしておりむしろ読みやすいのだが、何故かあまり入ってこなかっ…

『不死鳥少年 アンディ・タケシの東京大空襲』 石田衣良 / これからは、戦争を知らない人が戦争を伝えていかなければならない

『不死鳥少年 アンディ・タケシの東京大空襲』 石田衣良 毎日新聞出版 2019.2.24読了 14歳の日系アメリカ人時田武と、一緒に住む家族達、そして親友との東京大空襲を含む3日間の出来事がタケシの目線で語られている。広島や長崎の空襲に比べると、東京の空襲…