書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

「蔵」 宮尾登美子

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「蔵」上・下  宮尾登美子  ○

中公文庫  2019.1.10読了

 

宮尾さんの文章には、やはり、貫禄がある。いつものように、これでもかという位の試練が立ち塞がり、それを乗り越えていく女性の生き方が描かれている。

映画化、ドラマ化、舞台化もされており、烈という主人公の名前を目にした事がある人も多いのではないか。美少女烈が酒蔵の一人娘として育ち、成長する過程で視力を失う。視力を失ったらどうなるだろうか。私なら、大好きな本も読めなくなるという絶望感に陥るだろう、という薄っぺらな感想はありきたり。私が思うに、身体の一部を無くした人でも、前向きに生き、何かを成し遂げようとする姿は、もうそれだけで普通の人よりも1つ上の段階にいるのだということ。かわいそうと同情するよりも、人として尊敬をするべきで、こうなりたいと思うべきなのだ。

烈よりも、支える周りの大人達に感情移入した。支える人達も、1つか2つ上の段階にいるんだと思う。それにしても、この話はどう考えても烈ではなく、佐穂が主人公だ。

「一弦の琴」や「櫂」等の自伝4部作ほどではないが、世の女性には読んで欲しい小説である。