書に耽る猿たち

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『悲嘆の門』宮部みゆき/言葉の持つ力

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『悲嘆の門』上中下 宮部みゆき

新潮文庫 2020.6.2読了

 

学の先輩に誘われ、サイバー・パトロール会社でアルバイトをすることになった大学生の三島孝太郎。ネット社会の闇を調べるうちに、世間を賑わしている連続殺人事件だけでなく身の回りにも事件が起こる。元刑事の都築、そして謎の「ガラ」も登場。何を見つけるのか、何を犠牲にするのか。これは宮部みゆきさんの小説『英雄の書』の続編である。

すがの宮部さん、安定のストーリーとミステリ要素満載で読ませる力量は抜群である。ネット上に溢れているあらゆる情報を監視し、法律に抵触するもの、危険なもの、犯罪に結びつきそうな書き込みを見つけ出し調査する会社は現代にも多く存在する。いかにも現代社会の象徴である話と思いきや、これはなんとファンタジーである。上巻までは社会派小説と思って読んでいたが、あれよという間に上橋菜穂子さんの小説世界に入り込んだ気分になった。

日亡くなられた女子プロレスラーの木村花さん。SNSでの心無い中傷がきっかけとなり自ら命を絶つという、悲しく悔しいニュースが耳に入って来たのはつい最近のことだ。この小説の中では、傷付けられた相手だけでなく発信した人の内部にもしこりは残るという。

「溜まり、積もった言葉の重みは、いつかその発信者自身を変えてゆく。言葉はそういうものなの。どんな形で発信しようと、本人と切り離すことなんか絶対にできない。本人に影響を与えずにはおかない。どれほどハンドルネームを使い分けようと、巧妙に正体を隠そうと、ほかの誰でもない発信者自身は、それが自分だって知ってる。誰も自分自身から逃げることはできないのよ」(上巻 176頁)

葉の持つ力は、私たちが思っている以上に大きい。言葉の暴力は、実は肉体を侵害する本来の暴力より影響力があることが多々ある。暴力による怪我は治るけれど、言葉による痛みは人の心にいつまでも残ってしまうからだ。癒すことはなかなか難しい。そんな言葉の持つ力について考えさせられた小説だった。

太郎のバイト先である株式会社クマー。社名のきっかけとなった『ヨーレのクマー』という絵本が気になって検索してみたら、なんと宮部みゆきさんが書いた絵本だった。絵本も出していたなんて知らなかったな〜。

巻の表紙にも鎮座しているが、とあるビルの屋上にある置物「ガーゴイル」の像が作中で大きな意味を持つ。昔、夜の散歩をしている時、建物の中にある置物が人間の影に見え、どうにも見られている気がして落ち着かないようで薄ら寒い気持ちになったことがある。毎回そこを通るたびに確認してしまい「あ、またこっちを見てる」と。もしかしたら日中は動いていたのかもしれない…。

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