『ボダ子』赤松利市
新潮文庫 2022.2.3読了
ボーダーとは境界性人格障害と呼ばれる深刻な精神障害で、それは成長とともに軽快する障害だが、その一方で、成人までの自殺率が十パーセントを超えるという。(7頁)
その、ボーダーだから『ボダ子』である。作品の主人公、大西浩平の三度目の結婚で産まれた娘のことである。
赤松利市さんの作品は、続けて読むほどに一時期夢中になっていた。いつも楽しくブログを読ませてもらっている edwalkさんも過去に読んでいたし、この『ボダ子』のこともかなり気になっていた。
完全なフィクションとして読めばいいのだが、赤松さん自身の体験に基づいてることを知っているが故に、引け目を感じていたのだ。しかし今月の文庫新刊として書店に積み上げられており(というか発売を知っていて見に行ってみたのだけれど)手に取ったら、はいそれまで。怖いもの見たさって、なんなんですかねぇ。
いや、大西浩平という人物のダメさ加減、筋の通らなさ加減がどうしようもない。なんというか「こすい」人間なのである。どう考えても共感できない、言ってみればダメ人間(例えるなら、西村賢太さんの書く小説の主人公に近い)なのだ。しかし、誰の中にもたぶんこういう人間臭さやズルさがあるのだと思う。浩平はこんななのに、どこかあっけらかんとしていて楽観的である。それがまた哀愁と渇いた笑いをもたらす。
文庫本あとがきに「このあとがきに書かれていることは100パーセント真実です」とある。あとがきは。小説自体は、小説と謳っている以上作り話なのだ。それでも実体験が元になっているから、どこが真実でどこが空想なのかと疑ってしまう。こうやって読者に不可解な疑問と著者への偏見を伴うことがすでに赤松ワールドに染まってしまっているのだろう。圧倒的に読ませるこの文学、何なのだろう。ほんまに、なんなん。
昨日、記事をここまで書いたのだが、先程西村賢太さんがお亡くなりになられたとの一報が。破天荒な私小説、まだ読みたかった…。ご冥福をお祈りします。