書に耽る猿たち

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『パピヨン』 アンリ・シャリエール / 自由を求めて

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パピヨン』 上・下  アンリ・シャリエール  平井啓之 / 訳

河出文庫  2019.6.16 読了

 

の中で脱獄ものと言えば、吉村昭さんの『脱獄』、ヴィクトル・ユゴーの『レ・ミゼラブル』、そして金字塔、アレクサンドル・デュマの『モンテ・クリスト博』である。どの作品も映像化されている。そして、今回の『パピヨン』、もうすぐ映画が上映されるらしい。それに先立ち映画版のカバーを新たに装い、再版されたのが今回の小説。実話を元にした作品で、全世界でベストセラーになり、過去にも映画化されているようだ。

走。脱獄。特に男性はこの手のものが好きである。逃げること、これだけで胸高まり興奮するのだろう。捕らわれた中でも体力をつけ、知力を磨き、監視された法の目をかいくぐって抜け出すこと。まさに息せき切って走り抜けていくスピード感のある作品であった。

間はどこかで「自由」を欲しているのだろう。自由こそが人間たらしめているものであり、知らずのうちに心の底から自由を渇望していく。もしみなが自由であれば、何も問題は起きない。だから、前半の脱獄ルートの中で、未開インディオの村「グアジラ」で半年間を過ごしたパピヨンの生き方が私にはとても印象深く刻まれている。

私はここで、愛と平和とやすらぎとうつくしい人心を知った。さらば、グアジラの村、コロンビアとベネズエラにまたがる半島の未開のインディオたちよ。お前のきわめて広大な領域は、幸いにも両国の間で争われて、そのためお前を取りまく二つの文明国の干渉を一切まぬがれ得て自由である。お前の生き方や身の守り方の文明に毒されないやり方はきわめて大切なことを教えてくれた。つまり未開のインディオの方がごりっぱな学士様にまさる、ということである。(上巻 308頁)

ピヨンは、多くの地を渡り歩くが、このインディオを離れる時だけは、唯一悲壮感が漂っていたように思う。妻であったラリとゾライマに思いを馳せながら。栄えた文明よりも、自由な生き方ができるほうが、心が豊かになれるのである。

画は6/21(金)から、チャーリー・ハナム主演で公開される。相棒ドガを演じるのは『ボヘミアン・ラプソディ』でフレディ・マーキュリーを演じ、アカデミー賞主演男優賞を受賞したラミ・マレック。彼らの演技ももちろんだが、この小説をどのように映像化しているのかも楽しみである。