書に耽る猿たち

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『小さな場所』東山彰良|中国語が日本社会の中に溶け込む日は近いかも

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『小さな場所』東山彰良

文藝春秋[文春文庫] 2024.09.13読了

 

湾のどこにでもあるような街・紋身街(もんしんがい)にある食堂の息子景健武(ジンジェンウ)の目線で描かれる連作短編集である。どこにでもいる人たち、どこにでもある些細な事件、つまり他愛もない日々の営みがゆっくりと綴られる。

 

武の父は「あんな大人になるんじゃないぞ」と言うのが口癖になるほど、そういう大人(子供にとって決して見本とならない大人たち)が多い街なのだけど、そんな人たちだって良いところもあって彼らから学ぶことも案外多いものなのだと思う。

 

「神様が行方不明」という章に登場する孤独さんの読み方は中国語(または台湾語)だと「グウドウ」である。なんとかわいらしい響き!実際これは渾名なので本名は龍礼さんなのだがこれまた「ロンリィ」と読む。意外と漢字と読み方のギャップがあってくすぐられる。そしてこの章の中ではポール・オースターの『ムーン・パレス』が登場しこれがまた嬉しくなる。こちらは当然「月光」と書く。英語は日本語の中に溶け込んでいるから歌詞や店名で単語だけ普通に使われていたり、会話や文章にも普通に登場し洗練されてカッコいいイメージがある。中国語も文字としての漢字自体や音が案外カッコよくて、もっと使われたらいいのにとか、今後は今の英単語みたいにもっと蔓延するんじゃないかなと思った。

 

ってもほっこりする良い作品なんだけれど、ひとつ前に読んだ作品がオースターさんの小説だったからどうも霞んでしまうというか…。東山彰良さんの小説は過去に2冊読んでどちらも良かったのだけれど。いやはや、読む本の順番って大いに影響するよなぁ。この『小さな場所』は大人よりも、まだ「大人の世界の狡さ」を知らない(知っていても実感したことがない)子供たちが読むほうが良い気がする。岩波少年文庫に収まっていたら良いのにな。

 

の文庫本が刊行されてすぐ、つまり奥付をみると2023年1月に購入していたのに行方不明になっていた。その間に引越しもあったり、そもそも本は読んだら売ってしまうものがほとんどで、もしかしたら読み終えた本と一緒にして手放してしまったのかなと半ば諦めかけていたら、ひょんなところから出てきた。台湾の方が書いた作品や台湾が舞台になっている本は結構読んでいるが、その中でも最近おもしろかったのがこの本である。↓

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