書に耽る猿たち

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『リヴァイアサン』ポール・オースター|親友に捧げる愛の鎮魂歌

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リヴァイアサンポール・オースター 柴田元幸/訳 ★★

新潮社[新潮文庫] 2024.09.12読了

 

うしてこんなにも私の心を鷲掴みにするのだろう。この導入部、この語り口、この読み心地。例によって冒頭2〜3頁読んだだけで惹き込まれたわけだが、ふとこの感覚(初めて読む時に限られる)を味わえるのはあと数回だけかと思うとわけもなく寂しさが込み上げてきた。オースターの小説は未読の作品(邦訳済の作品)はあと2冊ほどしかないのだ。

 

気に入りの作家がいたら多かれ少なかれこう感じる人は多いだろう。しかしオースターさんに関しては、心底大きくそう思う。今年の4月に彼が逝去されたことも大きいだろう。つまりもう新作は二度と出てこない。どのくらい好きかというと、好きな外国人作家のベスト5には確実に入る。あとはサマセット・モームも確実かな。

 

人の男がウィスコンシン州の道端で爆死をした。その人物が誰なのかはまだ明らかにされていないが、ピーターはそれがベンジャミン・サックスであることを確信している。彼がどうしてこのような死を遂げたかがピーターにより語り尽くされるという物語である。

 

こからサックスの人生が、いや彼だけでなくファニー、マリア、リリアン、そしてピーターの人生の物語が連鎖する。それにしても登場人物らは精神的な繋がりだけでなく身体の繋がりも交差しまくる。こういうのがオースターらしいというかアメリカ文学らしいというか。結局のところ、親友同士のサックスとピーターの、崇高で美しい壮大な愛の鎮魂歌だ。

 

り手のピーター・エアロンがちょっと一息つくためにフランスへ行き、しばらくしてからアメリカに帰ろうかなと思った理由がとても良い。「きっと、野球なしで長く暮らしすぎたんだと思う。人間、ダブルプレーとホームランを一定量摂取しないと精神が枯渇してくるから」(30頁)こんな比喩表現を誰ができるだろう。

 

トーリーも言わずもがなだが、ただ読んでいるだけで幸せなこのひととき。こういう本を読んでいる時は誰か知り合いから「話しかけられないように」ひっそりと読書にいそしむ。なるべく一人になるように…。

 

りあえず未読の作品と、既に読んだがお気に入りの小説を読もうと思う。オースターにもっともっとたくさん書いてほしかったなと、春先の訃報を残念に思う。と、そればかり悔やんでも仕方がないから彼の作品がずっと後世に残り読み継がれるように密やかながら応援する。

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