『死者は嘘をつかない』スティーヴン・キング 土屋晃/訳
文藝春秋[文春文庫] 2024.10.22読了
この作品は、キングお得意の幽霊ものでホラー要素満載だ。キングの初期作品に原点回帰したようで、ストーリーもなかなか良かった。とはいえ米国で2021年に刊行されたものだからかなり最近の作品である。
複雑さがないからすらすら読める。登場人物も少ない。キングの作品は章ごとに番号が付与されているタイプが多いのだが、その章自体がものすごく短い。2頁とか3頁で終わるなんてこともざら。
ジェイミーは死者の姿が見える。この怪奇的な能力が備わっていることがわかったのは彼ががまだ6歳の頃だ。自然死でなければ亡くなった時の姿で見える。だから恐ろしい姿の死者を見ることもある。次第に「死者は嘘をつかない」ということに気がつく。つきたくてもつけないというか真実(事実)しか話せないんだろう。だって亡くなってるんだから。
作中でジェイミーは『ドラキュラ』や『フランケンシュタイン』を語る。ホラーとか幽霊とかの話になるとこういう古典がつきものだけど。で、実際に去年ストーカー著『ドラキュラ』を読んだら予想外におもしろく読めたんだよなぁ。
長編といってもキングにしては短い(なんせたいていは短くても上下巻にわかれている)から、冒頭でも話したようにさくっと読める。語り手がまだティーンエイジャーというのもある(とはいえ6歳頃からの記憶を遡り、22歳の頃に回想しているという体である)。ジェイミーは「これはホラーストーリーである」と何度も言うけれども、読んでいて全く怖さは感じなかった。『ミザリー』や『ペット・セメタリー』なんかもそうだけど、キングの作品で恐怖を感じたいなら映画の方がいい。キングの恐怖は視覚からのほうが身震いを感じる。
今年はキング作家人生50周年ということで出版社も盛り上がっているのか、邦訳の新刊がとても多い。でもキングはしばらくはお休みしようかな。