書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2020-09-01から1ヶ月間の記事一覧

『忘却の河』福永武彦/罪を背負い生きていく

『忘却の河』福永武彦 ★★ 新潮文庫 2020.9.28読了 先日読んだ『草の花』にとても心を奪われたので、同じく多くの人に読み継がれている福永武彦さんの『忘却の河』を読了した。 なんという小説だろう。読み終えた今も、余韻を楽しむというか、ぼうっと虚ろな…

『ワカタケル』池澤夏樹/神話ファンタジー

『ワカタケル』池澤夏樹 日本経済新聞出版 2020.9.26読了 近未来SFを読んでいたから、今度は古典的な作品を味わおう。昔も昔、古事記でいう上・中巻あたりの物語だ。池澤夏樹さんは、河出書房から世界文学全集と日本文学全集を個人編集し出版している。日本…

『夏への扉』ロバート・A・ハインライン/冷凍睡眠で生き長らえる未来

『夏への扉』ロバート・A・ハインライン 福島正実/訳 ハヤカワ文庫 2020.9.23読了 SF古典小説の名作としてよく取り上げられているため、この作品の存在は知っていたがまだ未読だった。なんでも、日本で山崎賢人さん主演でもうすぐ映画が公開されるようで、…

『死神の棋譜』奥泉光/読んでいて詰んだかも

『死神の棋譜』奥泉光 ★ 新潮社 2020.9.21読了 藤井聡太二冠の誕生、羽生善治九段はタイトル通算100期の記録がかかる竜王戦に挑戦するなど、将棋界を取り巻く話題に事欠くことがない昨今。そんな中、将棋を愛してやまない著者の奥泉さんが見事な現代ミステリ…

『夜と霧』ヴィクトール・E・フランクル/極限状態から見えてくるもの

『夜と霧』ヴィクトール・E・フランクル 池田香代子/訳 みすず書房 2020.9.19読了 アウシュヴィッツ強制収容所。その名を聞くだけで恐ろしく震えそうな気持ちになる。ナチスが捕虜になった人を大量虐殺したと言われている場所だ。この強制収容所から奇跡的…

『家族のあしあと』椎名誠/ほっこり、ほっこり

『家族のあしあと』椎名誠 集英社文庫 2020.9.17読了 藤井聡太さんが最初にメディアに登場するようになったのは、2016年に史上最年少でプロ棋士になった時だ。今の二冠タイトルも仰天、快挙だが、当時は14歳でまだ素朴な少年だったからより目立っていたと思…

『太陽がいっぱい』パトリシア・ハイスミス/他人に成りすます

『太陽がいっぱい』パトリシア・ハイスミス 佐宗鈴夫/訳 河出文庫 2020.9.16読了 ずいぶん昔のことだが、マット・デイモンさん主演映画『リプリー』を観た。当時はそのストーリーと残虐性に取り憑かれ、なんて面白い映画だろうと思った記憶がある。そもそも…

『風立ちぬ・美しい村・麦藁帽子』堀辰雄/風が立ったら前を向こう

『風立ちぬ・美しい村・麦藁帽子』堀辰雄 角川文庫 2020.9.14読了 実はまだこの作品は未読であった。誰もが知る有名な作品だからこそ、かえって読む機会が遠のくというのは実はよくあるのではないだろうか?先日福永武彦さんの『草の花』を読んでから堀辰雄…

『首里の馬』高山羽根子/孤独に羽ばたく

『首里の馬』高山羽根子 新潮社 2020.9.13読了 まだ記憶に新しい、第163回芥川賞受賞作。同時受賞は遠野遥さんの『破局』、直木賞は馳星周さんの『少年と犬』だ。どれを読もうか考えていて、馳星周さんの作品は過去に何冊か読んだことあるし、では知らない作…

『森の生活 ウォールデン』H.D.ソロー/自然界で生きよ

『森の生活(ウォールデン)』上下 H.D.ソロー 飯田実/訳 岩波文庫 2020.9.11読了 ウォールデンとはアメリカ・マサチューセッツ州にある湖のことである。この作品は、約170年前にヘンリー・デイヴィッド・ソローさんが2年2ヶ月に渡りウォールデン湖畔で自給…

『日本の血脈』石井妙子/女性は強し

『日本の血脈』石井妙子 文春文庫 2020.9.8読了 石井妙子さんといえば、現東京都知事小池百合子さんを描いた『女帝 小池百合子』がベストセラーになった。それも、ちょうど都知事選のさなかだったからなおのこと話題となった。本作はその石井妙子さんが過去…

『十二人の手紙』井上ひさし/極上の漫才や落語を思わせる

『十二人の手紙』井上ひさし 中公文庫 2020.9.6読了 井上ひさしさんの本を読むたびに、なんて上手いんだろうといつも唸らさせる。ストーリーもさることながら、日本語一つ一つの言葉や文の技巧が際立ち、お手本となるような文章なのだ。まるで国語の教科書に…

『天稟』幸田真音/変動する相場と変わらない絵

『天稟(てんぴん)』幸田真音 角川書店 2020.9.5読了 10年くらい前だろうか、山種美術館に行ったことがある。移転後の恵比寿にある今の美術館で、収められている日本画よりもむしろ、都会に突如現れた建物に驚いた記憶がある。経済小説は苦手とするところな…

『ミスター・メルセデス』スティーヴン・キング/警察もの推理ミステリー

『ミスター・メルセデス』上下 スティーヴン・キング 白石朗/訳 ★ 文春文庫 2020.9.2読了 久しぶりのキング作品だ。キング氏の小説を読むときは、軽い気持ちで読めないから心して挑む。この作品はのちに続く『ファインダーズ・ キーパーズ 』『任務の終り』…