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『彼岸花が咲く島』李琴峰|言葉の持つパワーを考える

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彼岸花が咲く島』李琴峰

文藝春秋[文春文庫] 2024.08.08読了

 

3年前に石沢麻依さんの『貝に続く場所にて』と同時に芥川賞を受賞した作品である。李琴峰さんの小説は、日本人以上に美しい日本語に魅了されていくつか読んでいる。この小説は、言葉、言語というものが持つ美しさや尊さがより一層感じられ、李琴峰さんが「ことば」のあり方に真摯に取り組んだ作品だった。

 

る島に1人の女性が倒れていた。彼女を見つけたのは彼岸花を採っていた地元の娘・游娜(よな)である。流れ着いた女性には記憶がない。そして自分たちとは微妙に異なる言語を話す。この島には「ニホンゴ」と「女語(じょご)」という独特の言語が存在しており、どうやら流れてきた女性の言葉はどこか馴染みがあるように思える。どこからやってきたのだろう。女性には宇実(うみ)という名がつけられた。

 

の歴史を受け継ぐ「ノロ」になれるのは、女だけだ。男尊女卑が叫ばれそれに立ち向かう作品が多いのに、この小説では逆である。游娜と幼なじみの拓慈(たつ)は、男にはノロになる資格がないことに疑問を持つ。いや待てよ、女性がかつて(または今でも)思い悩んでいたことが男性にも起きている。そう、どちらかに優位があってはいけないのだ。

 

娜と宇実、そして拓慈との美しい関係性、友情、そして愛情の片鱗が丁寧にどこか儚げに描かれていた。もちろん言葉が持つ凄まじいパワーも作品のそこかしこから湧き上がる。自分が発する言葉、文章にもっと責任を持たなくてはならないと感じた。そして、日本人が作り上げたこの美しい言語がもっと好きになった。

 

説を読んで(特に純文学作品で)、映像化して欲しいと思うことはそんなに多くはないのだけれど、この作品にはチャレンジしてほしい。この島の雄大な自然と植物や動物を表現してほしい、2人の少女を、透明感あふれる女優さんに演じてみてほしい。

 

日、第171回芥川賞に2作品が選ばれたが、まだ未読だ。直木賞作品のほうはすぐに読みたいと思うほど惹かれなかったが、芥川賞は両方とも近いうちに読みたいと思っている。

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