書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2021-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『ならずものがやってくる』ジェニファー・イーガン|ポップな現代アメリカ文学

『ならずものがやってくる』ジェニファー・イーガン 谷崎由依/訳 ハヤカワepi文庫 2021.3.30読了 2011年のピューリッツァー賞フィクション部門受賞作である。「ならずもの」とは何なのか?全く予想がつかず、一体どんな話なんだろう?と興味津々で読み進め…

『陰翳礼讃・文章読本』谷崎潤一郎|日本の文化と日本語の美しさ|随筆を通俗語にしようよ

『陰翳礼讃・文章読本』谷崎潤一郎 新潮文庫 2021.3.28読了 谷崎潤一郎さんの『陰翳礼讃』『文章読本』という2大随筆と、他に短い作品が3つ収録された随筆集である。どの作品も素晴らしい文章で散りばめられている。日本の文化と日本語の美しさが、これまた…

『月夜のミーナ』柴田周平|無名の作家の本を読む

『月夜のミーナ』柴田周平 河出書房新社 2021.3.25読了 何かの文学賞を受賞したわけでも、候補に選ばれたわけでもない、まして初めて見る作家の作品を読んでみるのは少し勇気がいる。まぁ、失敗したら嫌だなとかその程度のことなのだが。それでも期待と不安…

『高い窓』レイモンド・チャンドラー|マーロウがいちいちカッコ良すぎる

『高い窓』レイモンド・チャンドラー 村上春樹/訳 ハヤカワ文庫 2021.3.23読了 先月読んだ『ロング・グッドバイ』が素晴らしく良かったから、余韻冷めやらぬうちに、探偵フィリップ・マーロウシリーズの3作めである『高い窓』を読んだ。今回も村上春樹さん…

『死の島』小池真理子|人間は最期どうやって死ぬのがいいのか

『死の島』小池真理子 文春文庫 2021.3.21読了 長く文芸書の編集職をしていた澤登志夫は、定年後はカルチャースクールで小説講座を務めていた。しかし末期の腎臓がんのため講座を辞することに。元々妻子もあった登志夫だが、過去に不倫関係になった女性が原…

『ロード・ジム』ジョセフ・コンラッド|マーロウの語りからジムを想像する

『ロード・ジム』ジョセフ・コンラッド 柴田元幸/訳 河出文庫 2021.3.20読了 ジムという1人の人間のことを、マーロウの視点で描いた壮大なる物語。マーロウといえば、チャンドラー作品に出てくる探偵フィリップ・マーロウが思い浮かぶけれど、ここではチャ…

『ガダラの豚』中島らも|超常現象てんこもり

『ガダラの豚』Ⅰ Ⅱ Ⅲ 中島らも 集英社文庫 2021.3.16読了 中島らもさんといえば、アル中で躁鬱家、なかなかはっちゃけた人というイメージがある。小説家、エッセイスト、放送作家である彼は『今夜、すべてのバーで』で吉川英治文学新人賞を受賞した。私は過…

『フォックス家の殺人』エラリイ・クイーン|探偵エアリイ、12年前の真実を暴けるか?

『フォックス家の殺人』エラリイ・クイーン 越前敏弥/訳 ハヤカワ文庫 2021.3.14読了 フォックス、つまりキツネである。目次に書かれた見出しを見ると、すべて「きつね」になっている。例えば「1 子ぎつねたち」「2 空飛ぶきつね」のように。この作品に登場…

『悲の器』高橋和巳|転落と自滅|第1回文藝賞受賞作

『悲の器』高橋和巳 河出文庫 2021.3.13読了 39歳で早逝された天才作家高橋和巳さんを皆さんご存知だろうか。私は今まで彼の作品を読んだことがなかった。そのことを悔やみつつも、今回読んで本当に良かった。この『悲の器』を読むと著者高橋さんのすごさが…

『生きるとか死ぬとか父親とか』ジェーン・スー|母が繋ぐ父と娘の絆

『生きるとか死ぬとか父親とか』ジェーン・スー 新潮文庫 2021.3.10読了 このジェーン・スーさんという方、私が知ったのは最近なのだが、なかなかおもしろい方のようだ。自らを「未婚のプロ」と称し、生粋の日本人なのに外国人であるかのような名前をつけて…

『レストラン「ドイツ亭」』アネッテ・ヘス|ホロスコート裁判に向き合う|国民が知るべきこと

『レストラン「ドイツ亭」』アネッテ・ヘス 森内薫/訳 ★ 河出書房新社 2021.3.8読了 少し不気味な感じだけどかわいくもある表紙のイラスト(ついでに言うとゴッホ作「夜のカフェテラス」の構図や色合いに似ている)、タイトルの朴訥で大きめの字体に妙に惹…

『野良犬の値段』百田尚樹|時代を象徴したエンタメ作品

『野良犬の値段』百田尚樹 幻冬舎 2021.3.5読了 もう小説は書かない、って百田尚樹さん言ってたのになぁ。しかもそんなに月日は経っていないのに。お馴染みの幻冬舎から出版されているから、見城さんから勧められたのかしら。いずれにせよ読者からすると、ま…

『河岸忘日抄』堀江敏幸|船での日々の営み

『河岸忘日抄(かがんぼうじつしょう)』堀江敏幸 新潮文庫 2021.3.4読了 先月読んだ堀江敏幸さんの『雪沼とその周辺』がぴたりと好みに合っていたから、2冊めを手に取る。読売文学賞を受賞された長編である。これは小説なのか随筆なのか、エッセイなのか。…

『モルグ街の殺人・黄金虫 ポー短編集Ⅱ ミステリ編』エドガー・アラン・ポー|探偵はデュパンから生まれた

『モルグ街の殺人・黄金虫 ポー短編集Ⅱ ミステリ編』エドガー・アラン・ポー 巽孝之/訳 新潮文庫 2021.3.2読了 ポー氏の作品はかなり昔に何作かは絶対に読んだはずなのに、覚えていなかった。読んだということ、デュパンが出てきたことは頭にあったのに、こ…

『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』李龍徳|在日韓国人について考える

『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』李龍徳(イ・ヨンドク) 河出書房新社 2021.3.1読了 なかなか衝撃的なタイトルである。竹槍で突き殺すなんて、いったいどんな戦いが始まるのかと身構えてしまうが、これは「ヘイトクライム」を扱ったディストピア小説だ。…

『喜嶋先生の静かな世界』森博嗣|研究者の幸せな時間

『喜嶋先生の静かな世界』森博嗣 講談社文庫 2021.2.27読了 森博嗣先生(何故だか先生と呼びたくなるし、そのほうが合っていると思うのだ)の本を読むのは久しぶりだ。小説に夢中になり始めた頃にほとんどの人が通るのが森先生の作品群ではないだろうか。膨…