『君の名前で僕を呼んで』アンドレ・アシマン 高岡香/訳
オークラ出版[マグノリアブックス] 2024.07.25読了
かなり密度の濃い恋愛小説だ。一言でいえばBL小説になるのだろうが、それにとどまらない一途な崇高さが溢れんばかり。相手が異性でも同性でも、人を愛することには変わりはない。
毎年夏休みになると、大学教授である父親の助手として、エリオの家には若い研究者がひとり滞在することになっている。その年に来たのがオリヴァーだった。最初から気にかかっていたのだ。その想いは徐々に募り、はち切れんばかりとなり、妄想に、想像に、夢は膨らむ。正直なところ、最初の方はエリオの独白に恥ずかしくなってしまい読み続けるかどうか迷ったほどだ。だけど、2人がどうなるのか気になっていつの間にか読了した。
(・・・このあと、ちょいネタバレします)
オリヴァーと出逢い、愛し合ったひと夏の(たった6週間!)短い期間の出来事ではあるが、人を愛することがここに凝縮されている。結局は2人は離れ離れになってしまうのだけれど、愛し合ったということは揺るぎない事実。恋愛なんてうまくいかないことが大半なのに、彼らは結ばれて幸せだったのだ。
10代の若者が読んだら感じ方はかなり違うだろう。恋愛が人生の全てだと思っている頃であれば、共感度100%(何かの宣伝文句みたいだな…)だと思う。私としては、エリオの父親の包み込むような愛と眼差しがとても心地良かった。こんな理解のある親、いや理解していなかったとしても理解しようと努める親がいると、子どもはどんなにか心強いだろう。あとは、数十年後の2人の再会シーンも良かった。
確か代官山の蔦屋書店のスタッフがこの映画を気に入り、その後原作も読んで絶賛されていたというのを何かで見た。おそらくだけど、映画のほうが良さそうな気がする。私はヒース・レジャー主演のあの名作『ブロークバック・マウンテン』やエディ・レッドメイン主演『リリーのすべて』(個人的にはアリシア・ヴィギャンデルが好きで観た)が大好きなのだが、同性愛を扱った映画ってとびきり美しいと感じる。そして共通して言葉少な(セリフが少ない)なイメージがある。なんというかその存在感だけで物語っている静謐な美があって、それだけで尊い。きっとこの作品もそんな映画なんだろうなという気がしている。