書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2020-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『コンニャク屋漂流記』星野博美/自分のルーツを辿る

『コンニャク屋漂流記』星野博美 文春文庫 2020.3.28読了 神保町にある大好きな新刊書店に、星野博美さんの本がいくつか平積みされていた。これは何だろう?見たことも聞いたこともない著者だし、タイトルも変わっている。たまには、いつも選ばない本でも読…

『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ/大自然の中で孤独に生きる

『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ 友廣純/訳 ★★ 早川書房 2020.3.25読了 今、この本はたいていの書店で平積みされている。なんせ全米で500万部突破、2019年にアメリカで一番売れた本なのだ(と帯にある)。ということは、去年、ミシェル・オ…

『恥辱』J・M・クッツェー/都会と田舎の対比

『恥辱』J・M・クッツェー 鴻巣友季子/訳 ハヤカワepi文庫 2020.3.22読了 ノーベル文学賞を受賞しているが、まだ読んだことのないオランダ系南アフリカ人の作家さんだ。本作『恥辱』は書店でたまに見かける。恥辱とは、辱しめを受けること。52歳の大学教…

『藻屑蟹』赤松利市/モズクでなくてモクズ/ミステリと純文学の融合

『藻屑蟹(もくずがに)』赤松利市 ★ 徳間文庫 2020.3.21読了 気になっていた作家である。というのも、彼は「62歳、無職、住所不定」から鮮烈なる文壇デビューを果たしたからだ。この作品がデビュー作、そして徳間書店が主催する第一回大藪春彦新人賞を受賞…

『書評稼業四十年』北上次郎/本のあとがき・解説は絶対に最後に読んで

『書評稼業四十年』北上次郎 本の雑誌社 2020.3.19読了 小説をよく読む人なら、北上次郎さんの名前を目にしたことはあるだろう。特に文庫本の解説をされていることが多い。そんな北上さんの40年に及ぶ書評業について書かれた読み物だ。エッセイのようで読み…

『幻影の書』ポール・オースター/小説の中で映画を観るような

『幻影の書』ポール・オースター 柴田元幸/訳 新潮文庫 2020.3.19読了 やはりオースターさんはいいなぁ。どこに連れて行ってくれるかわからないストーリーと洗練された文体(これは柴田氏の力によるところも大きいが)、流れる時間が読書の楽しさを充分に味…

『革命前夜』須賀しのぶ/監視社会の中で生きる/読書の楽しみ方

『革命前夜』須賀しのぶ 文春文庫 2020.3.16読了 今年に入ってすぐに、須賀しのぶさんの『また、桜の国で』を読んだ。須賀さんが描く文章と壮大なストーリーは期待を超えていて夢中になれた。今回の作品のほうが過去に書かれたもので、これもなかなか評判が…

『手のひらの音符』藤岡陽子/心温まる希望あふれる小説

『手のひらの音符』藤岡陽子 新潮文庫 2020.3.14読了 初読みの作家さんである。タイトル、表紙、そして帯の文を見ただけで、正統派の小説なんだろうと予想できる。読み終えた今、予想に違わず良い小説だなと温かい気持ちになることが出来た。 長年働いていた…

『1793』ニクラス・ナット・オ・ダーグ/引っ立て屋が気になった

『1793』ニクラス・ナット・オ・ダーグ ヘレンハルメ美穂/訳 小学館 2020.3.13読了 スウェーデン、ストックホルムを舞台とした歴史ミステリーだ。タイトルの『1793』はもちろん西暦1793年のこと。タイトルが年号になっている作品は結構あるけれど、…

『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』川上和人/鳥への愛が見え隠れ

『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』川上和人 新潮文庫 2020.3.10読了 本当はベストセラーになった『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ』が読みたかったのだが、まだ文庫になっていないため、まずは手っ取り早い本書を手に取る。猿を始め動物好きの私は…

『犯罪』フェルディナント・フォン・シーラッハ/読みやすいけどもっとスリルが欲しい

『犯罪』フェルディナント・フォン・シーラッハ 酒寄進一/訳 創元推理文庫 2020.3.9読了 2012年の翻訳部門本屋大賞1位の短編集で、作者のデビュー作だ。その後も彼の本は何冊か刊行されているのは知っていたが、読むのは初めてだ。11の短編があり、どれも犯…

『雲』エリック・マコーマック/全ては神秘に包まれている

『雲』エリック・マコーマック 柴田元幸/訳 ★★ 東京創元社 2020.3.8読了 ひときわ目を惹く素敵な装幀である。いつも本には書店の紙のカバーをかけてもらい持ち歩いているのだけれど、素敵な表紙がカバーの中に包まれていると思うだけでもなんだかウキウキす…

『生のみ生のままで』綿矢りさ/本気で愛した人が同性だっただけ

『生(き)のみ生(き)のままで』上下 綿矢りさ 集英社 2020.3.5読了 ずっと気になっていた綿矢りささんの本、女性同士の恋愛小説だ。普段ならそんなに手に取らないタイプの作品だが、綿矢さんが書いた新たな境地を読んでみたいと強く思った。綿矢さんが描…

『魔術はささやく』宮部みゆき/読者が宮部さんの魔術にかかる

『魔術はささやく』宮部みゆき 新潮文庫 2020.3.3読了 宮部さんの作品は数え切れないほど読んでいるのに、思えば、宮部さんの作家生活でかなり初期にあたる本作はまだ未読だった。この作品で1989年に日本推理サスペンス大賞を受賞している。 なんだか松本清…

『若草物語』オールコット/子供の頃に夢中になった物語を読み直す

『若草物語』オールコット 松本恵子/訳 新潮文庫 2020.3.2読了 子供の頃に夢中になった物語をまた読み返してみたいと思うことはないだろうか?まさしく私にとって今ちょうどそんな時で、書店に平積みされていた本書が目に留まった。今月末から映画化される…

『君が異端だった頃』島田雅彦/いけ好かないけどやりおるな

『君が異端だった頃』島田雅彦 ★ 集英社 2020.3.1読了 「君」とは作者である島田さん自身のことで、この本は自伝的私小説である。一度島田さんの対談を聴きに行ったことがあるが、巧みな話術と知性、そしてあのルックス、やはりモテそうな人だと思った。この…