書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2022-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『火曜クラブ』アガサ・クリスティー|人間なんてみんな似たりよったり

『火曜クラブ』アガサ・クリスティー 中村妙子/訳 ハヤカワ文庫 2022.1.29読了 今年1冊めのクリスティー作品は短編集を選んだ。ミス・マープルものの短編であるが、去年読んだリチャード・オスマン著『木曜殺人クラブ』の設定にそっくりなこと。というか、…

『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』鈴木忠平|他の人には見えないものを見ている

『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』鈴木忠平 ★ 文藝春秋 2022.1.27読了 もうすぐプロ野球シーズンが始まる。私も某球団のファンで、年に何度も球場に足を運ぶ。チームの勝利、活躍した選手や思い入れのある選手のプレーや行動に一喜一憂する。…

『十七八より』乗代雄介|選考委員を唸らせるとはこのこと

『十七八より』乗代雄介 講談社文庫 2022.1.25読了 乗代さんがそろそろ芥川賞を取るんじゃないかなぁと見守っていたけれど、『皆のあらばしり』は残念ながら受賞ならず。今回の芥川賞候補になった作品は1作も読んでないからなんとも言えないけれど。また折を…

『自由研究には向かない殺人』ホリー・ジャクソン|事件を解決するのは真に思い入れが強い人

『自由研究には向かない殺人』ホリー・ジャクソン 服部京子/訳 ★ 創元推理文庫 2022.1.24読了 昨年末から気になっていた本。表紙も雰囲気があってそそられる。ハヤカワミステリランキングを始めとし、このミスや文春の海外ミステリランキングの上位に食い込…

『郵便配達は二度ベルを鳴らす』ケイン|読み終えたあとにじわじわと

『郵便配達は二度ベルを鳴らす』ジェイムズ・M・ケイン 池田真紀子/訳 光文社古典新訳文庫 2022.1.22読了 どうやらこの作品は何度も映画化されているようだ。流浪のフランクは、たまたま立ち寄ったレストランで働く美貌のコーラに惹かれる。このレストラン…

『締め殺しの樹』河﨑秋子|荒々しく生臭く

『締め殺しの樹』河﨑秋子 小学館 2022.1.21読了 以前何かのテレビ番組で、河﨑秋子さんの『肉弾』という小説が紹介されていた。作品のことよりも河﨑さんが元羊飼いだったということに興味を覚え、どんな作品を書くのかと気になっていた。 その『肉弾』を探…

『人間の絆』サマセット・モーム|自分を意識し、人生をどう生きるか

『人間の絆』上下 サマセット・モーム 金原瑞人/訳 ★★ 新潮文庫 2022.1.19読了 フィリップは知らないうちに、世界で最高の楽しみ、本の楽しみを知ってしまった。(上巻64頁) 叔父の書斎で一人本を探していくうちに魅力的な本に出逢い、最高の楽しみを見出…

『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬|狙撃兵の境地とは、真の敵とは

『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬 早川書房 2022.1.15読了 選考委員満場一致(しかも満票)で去年のアガサ・クリスティー賞を受賞した本作品。単行本が刊行される前から話題になっていたので、私も楽しみにしていた。これが逢坂冬馬さんのデビュー作で、な…

『まともな家の子供はいない』津村記久子|「まとも」「ふつう」って何?いいことなの?

『まともな家の子供はいない』津村記久子 ちくま文庫 2022.1.14読了 去年の後半は津村記久子さんの作品を結構読んだが、今年はこの本から。表題作ともうひとつ『サバイブ』という短編が収められている。 『まともな家の子供はいない』 津村さんの作品にして…

『改良』遠野遥|何のために美しさを求めるのか

『改良』遠野遥 河出文庫 2022.1.13読了 遠野遥さんが『破局』で第163回芥川賞を受賞されたとき、何より驚いたのは、遠野さんがロックバンドBUCK-TICKのボーカル櫻井敦司さんの息子であるということだった。すらりとした体躯に端正な顔立ちだなとは思ってい…

『皮膚の下の頭蓋骨』P.D.ジェイムズ|濃密な描写にうっとり

『皮膚の下の頭蓋骨』P.D.ジェイムズ 小泉喜美子/訳 ハヤカワ文庫 2022.1.12読了 このタイトル、なんだか不気味…。もう、タイトルだけで骸骨化した死体が登場する予感が満載。著者を知らずにはなかなか手に取りづらい。読み始めてすぐに、シェイクスピアな…

『天に焦がれて』パオロ・ジョルダーノ|ひたすらに美しい小説

『天に焦がれて』パオロ・ジョルダーノ 飯田亮介/訳 ★★ 早川書房 2022.1.8読了 至福の読書時間とはこのような本を読んだ時のことを言う。取り立てて何の変哲もない日に彩りをもたらす。特に夜更け過ぎ、水滴の音が響くほどの静寂の中で読み耽っていたのが最…

『残月記』小田雅久仁|独特な世界観に魅せられる

『残月記』小田雅久仁 双葉社 2022.1.5読了 月の見方が変わってしまった。この本には、月にまつわる3つの中短編が収められている。巧みなストーリーテリングに感服し、本から立ち昇る不気味な様子がたまらない。こんな小説を書く人がいたなんて。小田雅久仁…

『女には向かない職業』P.D.ジェイムズ|確かに、若い美女が探偵業をするのは限界がある!?

『女には向かない職業』P.D.ジェイムズ 小泉喜美子/訳 ハヤカワ文庫 2022.1.3読了 ハヤカワ文庫では年に一度「ハヤカワ文庫の100冊」というフェアをやっている。去年も9月にラインナップが発表され、各書店で大々的に展開された。2021年は「つながる物語。…

2021年に読んだ本の中からおすすめ10作品を紹介

昨年2021年に私が読んだ本の中から、心に残った10作品を紹介しようと思う。単純にストーリーがおもしろかった本だけでなく、好きな本、感動した本、大切にしたい本など、私の個人的な嗜好で選んだものだ。本の読み方は人それぞれなので、数が多ければいいわ…

『禁色』三島由紀夫|女性への復讐、なれの果て

『禁色』三島由紀夫 新潮文庫 2022.1.1読了 旅に出る時、帰省する時、遠出をする時にお供にする本はいつも非常に迷うものだ。列車や飛行機などの移動中を始めとして、読書にかける時間は結構多い。持っていった本に失敗すると途方もなく残念になるから、間違…