中国やインドが、どれだけ人口を増やそうが産業により目覚ましい発展をしたとしても、日本の目標でありかつ敵であるのは大国アメリカだと思う。数多ある国のうち、意識しているのは常にアメリカなのだ。この感覚はおそらく日本だけではないように思う。今回の大統領選も、きっとどの国でも大きく報じられている。
空也と寵児は学生時代に「コントラ・ムンディ」という秘密サークルを作る。ラテン語で「世界の敵」を意味するその言葉を胸に、2人はそれぞれ別々の世界で生きていくが、どこかで必ず混ざり合い助け合う。自由な日本を目指して戦うテロリストたちの冒険譚である。心のどこかで大国アメリカを意識しながら。
村上龍さんの『オールドテロリスト』や『愛と幻想のファシズム』を連想した。政治が絡むところが村上龍さんを思わせるが、それ以外にも小川哲さん、貫井徳郎さん、阿部和重さんが書いた小説をごたまぜにして捏ねくりまわして一つにしたような感じがした。
作品は二部構成になっている。一部は2人の学生時代から始まり、どちらかというとゆっくりと物語が進む。二部の始まりは、ある事件が起こることによって警察組織が動き出す。疾走感とサスペンス的な語り口にのめり込み、「島田さんこういうミステリーもいけるじゃん!」と新鮮な気持ちになる。
大反響となったテロを起こした空也が、ひとりその後を空想する姿が印象的だった。大金が手に入っても何に使うのか?南の島でバカンスを楽しむのか?空也はそんな安らぎを求めていないし、そうなったとしても3日で飽きると予想する。結局何が残るのか自問自答するのだ。人ってもしかすると大それたことをすること自体に快感を覚えてその後のことは考えていないのではないか?桜田マリアが人助けをすることに快感を覚えるという部分も興味深かった。慈善事業をやって喜ぶ人の気持ちというか、自己肯定感というか。
作中でエドガー・アラン・ポーの『告げ口心臓』という小説に触れられていた。死者は生きている者を不安にし、動悸をもたらすという内容らしい。角川文庫で短編集が最近数冊出ているはずなので読んでみようかな。
こんなにも夢中になって読めるのは、人にはみな、多かれ少なかれ、テロへの願望のような羨望のような、密やかな企みめいたものがあるからだと思う。島田さんの作品のなかでは疾走感がある部類で、これはこれでなかなか良かった。