書に耽る猿たち

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『嵐が丘』 エミリー・ブロンテ / ヒースクリフ、彼の名は忘れられない

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嵐が丘』上下  エミリー・ブロンテ   河島弘美 / 訳

岩波文庫  2019.9.24読了

 

マセット・モームが「世界の十大小説」として挙げた中の1冊が、この『嵐が丘』である。ブロンテ姉妹の1人、エミリー・ブロンテが唯一残した小説、私が読むのは確か3回めだと思う。最初は多分10代初めの頃で、誰の訳を読んだのかすら覚えていない。2回めは20歳位になって、新潮文庫鴻巣さん訳を読んだ。今回は読んだことのない河島弘美さん訳にしてみた。改めて読もうと思ったのは、先日水村美苗さんの『本格小説』を読んだからだ。 

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 れにしても、ストーリーも知っているのに、引き込まれるのは何故だろう。世界の名作中の名作であり、狂気の恋愛復讐劇との名高い作品。特に、ヒースクリフ、この名前は誰しも忘れることがないだろう。というか、私自身、数多の名作の主人公の名前は忘れてしまうことが多いのに、このヒースクリフという名前だけは忘れたくても忘れられないのだ。1回めに読み終えた時以後、この名前を聞いただけでぞっとしたし、恐怖感が付きまとってきた。「嵐が丘」と「ヒースクリフ」がセットになっている。キャサリンは、ある意味色んな作品に出てくる凡庸性の高い名前だからかインパクトはないのだが、ヒースクリフって、他に出てこないよな〜。

語は知り尽くされているし、感想は今更語るのもおこがましいのだが、2度3度と読むにつれて言えることは、ヒースクリフは本当はそんなに悪ではないのではないか?ということ。愛し合っていたと思っていたキャサリンに傷付けられて、狂ってしまっただけ。普通なら、諦めたり時間が解決するのだが、ヒースクリフは決して諦めないで挑んだ。愛情と憎悪とは紙一重だ。狂気に侵されて精神を病んだだけなのだ。何だかんだ言って、語り部である家政婦のネリーは、ヒースクリフから逃げ出さず、ずっと寄り添っているのだから。悪であるならば、近寄れないはず。

回読んだ岩波文庫の河島さん訳は、とても読みやすかった。海外の作品は、訳者によって読んだ時の印象や面白さがだいぶ異なる。比較して読めること、それはある意味翻訳小説の面白さである。世界の名作は、色んな訳が楽しめ、それは本当に素晴らしいことだと思う。