書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『推し、燃ゆ』宇佐見りん|若い才能花開け|本を自分で選ぶ楽しさ

『推し、燃ゆ』宇佐見りん 河出書房新社 2021.1.29読了 1月20日に芥川賞受賞作が発表されてからしばらくは書店から姿を消していた。ノミネート時から有力候補となっていた宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』である。宇佐見さんについては、デビュー作『かか』を…

『ポケットにライ麦を』アガサ・クリスティー|物語として完璧|次に読む本の選び方

『ポケットにライ麦を』アガサ・クリスティー 山本やよい/訳 ★ ハヤカワ文庫 2021.1.28読了 次に読む本はみんなどうやって選ぶのだろう?本がないと生きにくい私は、未読の本をだいたい数十冊ストックしておきそこから選ぶのだけど、毎日のように迷いに迷う…

『こちらあみ子』今村夏子|相手の気持ちを考えることの大切さ

『こちらあみ子』今村夏子 ちくま文庫 2021.1.27読了 私が通っていた小学校では「特別支援学級」なるものがあった。普通のクラスに所属はしているが、授業だけはみんなと違う別の教室で受ける。知的障害または身体障害があり、支援を受けないと生活ができな…

『一九八四年』ジョージ・オーウェル|洗脳政治とはこのこと

『一九八四年』ジョージ・オーウェル 高橋和久/訳 ★ ハヤカワepi文庫 2021.1.26読了 この小説、読んだ人も多いと思うが、読んでいなくても存在自体はほとんどの人が知っているのではないだろうか。書店に行けばハヤカワ文庫の棚に平積みされているし、紙の…

『あゝ、荒野』寺山修司/ボクシングと青春と新宿歌舞伎町

『あゝ、荒野』寺山修司 角川文庫 2021.1.24読了 寺山修司さんは類稀なる才能を持ち、演劇・映画・短編・詩・エッセイなど幅広く活動された方である。有名なのは『家出のすすめ』や『書を捨てよ、町へ出よう』だろうか。唯一の長編小説がこの『あゝ、荒野』…

『コレクションズ』ジョナサン・フランゼン/ある家族のありのままを曝け出す

『コレクションズ』上下 ジョナサン・フランゼン 黒原敏行/訳 ハヤカワepi文庫 2021.1.23読了 現代アメリカにおける国民的作家の1人、ジョナサン・フランゼンさんについに手を伸ばしてしまった。『ピュリティ』や『フリーダム』が気になっていたのだが、分…

『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』河野啓/ひとりの人間としての栗城劇場

『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』河野啓 集英社 2021.1.20読了 約3年前に、ある日本人登山家がエベレストで亡くなった。そのニュースはよく憶えている。なぜなら、その登山家は指を9本失くしていたから。登山中に亡くなったことよりも、指を9本切…

『鏡子の家』三島由紀夫/鏡を通して自己をみつめる

『鏡子の家』三島由紀夫 新潮文庫 2021.1.18読了 三島由紀夫さんの『鏡子の家』を再読した。以前読んだのは10年以上前で、主な登場人物と全体の雰囲気をなんとなく憶えている程度だった。三島作品の中ではあまり評判が良くないと言われているが、私としては…

『ヒューマン・ファクター』グレアム・グリーン/人間が守りたいもの

『ヒューマン・ファクター』グレアム・グリーン 加賀山卓朗/訳 ハヤカワepi文庫 2021.1.16読了 先日、ジョン・ル・カレさんが亡くなった。彼の『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』というスパイ小説の傑作と名高い作品を読もうかと意気込んでいた…

『ナイン・ストーリーズ』サリンジャー/読みたくなる類いの爽快な作品たち

『ナイン・ストーリーズ』J.D.サリンジャー 柴田元幸/訳 ヴィレッジブックス 2021.1.14読了 サリンジャーさんの作品は、どこか爽快なイメージがある。例えその小説が悲劇だとしても。読んだ作品の数はそう多くないのに、ふと思い出した時に読みたくなる類…

『黒革の手帖』松本清張/銀座と悪女、そして孤独

『黒革の手帖』上下 松本清張 新潮文庫 2021.1.13読了 もしかしたら以前読んだことがあるかもしれない…と思いつつも手を出してしまった。先日、武井咲さん主演の『黒革の手帖 拐帯行』がテレビで特別編として放映されており思わず見入ってしまう。といっても…

『スタイルズ荘の怪事件』アガサ・クリスティー/さぁ、ポアロ劇場はここから

『スタイルズ荘の怪事件』アガサ・クリスティー 矢沢聖子/訳 ハヤカワ文庫 2021.1.11読了 名探偵ポアロシリーズはちゃんと一話完結しているから、どれから読み始めてもいい。おもしろいと評判のもの、自分が興味のあるものだけを読むのも全然アリだ。私もそ…

『白いしるし』西加奈子/その人の作品を好きになる

『白いしるし』西加奈子 新潮文庫 2021.1.9読了 西加奈子さんの直球恋愛小説。それも、苦しい苦しい恋愛だ。32歳独身、絵を描きながらバイトをして暮らす夏目は間島くんに恋をする。間島昭史は、作中ではずっと『間島昭史』と『』つきで表されている。まるで…

『アウグストゥス』ジョン・ウィリアムズ/ローマ帝国はいかにして生まれたのか

『アウグストゥス』ジョン・ウィリアムズ 布施由紀子/訳 作品社 2021.1.9読了 ローマの古代史、紀元前1年にローマ帝国が地中海世界を支配した時代を描いた作品である。その後は平和な200年と言われる「パックス・ロマーナ」になる。私は結構な年齢になるま…

『オリーヴ・キタリッジの生活』エリザベス・ストラウト/誰の日常にもドラマがある

『オリーヴ・キタリッジの生活』エリザベス・ストラウト 小川高義/訳 ★ ハヤカワepi文庫 2021.1.6読了 毎日こうして本を読んでいると、自分の好みの本は数頁読んでわかるものだ。私が大事にしている「読み心地の良さ」があり、読んでいる時間そのものが宝物…

『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ/そばにいる人のことを大切に

『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ 文春文庫 2021.1.3読了 私がようやく手に取ったのは文庫本だけど、ジャケットのデザインも単行本と同じで、2019年本屋大賞受賞作で書店にもうず高く積み上げられていたから、知らない人はほとんどいないだろう。瀬尾…

『集英社ギャラリー[世界の文学]18 アメリカⅢ』ベロー、ボールドウィン、バース/アメリカ文学お腹いっぱい

『集英社ギャラリー[世界の文学]18 アメリカⅢ』ベロー、ボールドウィン、バース 集英社 2021.1.2読了 集英社が1989年から刊行した世界文学全集全20巻のうちの1冊、通し番号としては18でアメリカの3巻めである。巻末の紹介では「病める現代アメリカをえ…