書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2020-04-01から1ヶ月間の記事一覧

『車輪の下』ヘルマン・ヘッセ/悲劇なのに清々しい気持ちになれる

『車輪の下』ヘルマン・ヘッセ 高橋健二/訳 ★★ 新潮文庫 2020.4.29読了 世界の古典名作を読もう、ということで『車輪の下』を読んだ。ヘッセ氏の作品は10代の頃に読んだ記憶があるが、何を読んだのかどんな話だったか全く覚えていない。この作品は、ヘッセ…

『あなたが消えた夜に』中村文則/歪んだ愛と狂気

『あなたが消えた夜に』中村文則 毎日文庫 2020.4.27読了 久しぶりに中村文則さんの小説を読んだ。全編を通して漂うほの暗い感じは今回も健在のようだ。主人公が刑事であるが、中村さんが警察組織を題材にするのは珍しいような気がする。 連続通り魔達人事件…

『もうダメかも 死ぬ確率の統計学』マイケル・ブラストランド/デイヴィッド・シュピーゲルハルター /数字と物語、どちらにも誠実に

『もうダメかも 死ぬ確率の統計学』マイケル・ブラストランド/デイヴィッド・シュピーゲルハルター 松井信彦/訳 みすず書房 2020.4.26読了 いつも購読しているブログで紹介されていて、この科学書なら私にも楽しめそう!と思い読んでみた。小説ばかり読ん…

『銀河鉄道の父』門井慶喜/あの宮沢賢治を育て見守った父の姿

『銀河鉄道の父』門井慶喜 講談社文庫 2020.4.25読了 宮沢賢治さんといえば、誰もが知っている童話や詩を書く国民的作家であり、岩手の理想郷イーハトーブが思い浮かぶ。私も一度岩手に旅行で訪れた時に、イーハトーブをモチーフにした広大な公園に行ったこ…

『クラウドガール』金原ひとみ/つかみどころのない関係

『クラウドガール』金原ひとみ 朝日文庫 2020.4.24読了 性格も容姿も異なる姉妹がそれぞれ心の内を語っていく。姉の理有はしっかりして面倒見の良い現実主義、妹の杏は自由奔放で夢見がちで美しい少女。2人は姉妹といえど育った環境も違うから両親への想いも…

『地に這うものの記録』田中慎弥/ネズミとの和解は如何に

『地に這うものの記録』田中慎弥 ★ 文藝春秋 2020.4.22読了 田中慎弥さんの作品ってどうも中毒性があるようで、つい気になって読んでしまう。これは今月の新刊である。本を持ち上げた瞬間、見た目の厚さに反してずっしりと重い。ハードカバーの紙質もそうだ…

『よその島』井上荒野/深く真摯な愛の話

『よその島』井上荒野 中央公論新社 2020.4.20読了 実の父親と瀬戸内寂聴さんの不倫を扱った話題の本『あちらにいる鬼』を読もうとしていたのに、書店に平積みされた新刊に何故か手が伸びてしまった。これって、本好き・書店好きあるあるですよね、きっと。…

『龍は眠る』宮部みゆき/サイキックは生きづらい

『龍は眠る』宮部みゆき ★ 新潮文庫 2020.4.18読了 先月読んだ『魔術はささやく』に次いで、これも宮部みゆきさんのかなり初期、1992年に書かれた作品だ。およそ30年前かぁ、こう考えると宮部さんは、筆力が衰えることもなくずっと第一線で活躍されていて本…

『モスクワの伯爵』エイモア・トールズ/心のゆとりと人間らしい暮らし

『モスクワの伯爵』エイモア・トールズ 宇佐川晶子/訳 早川書房 2020.4.17読了 新聞の書評欄でこの本を見つけて、気になって買っておいた。もう、装丁からして素敵すぎる。こんな鮮やかなエメラルドグリーンの表紙に金色ってなかなかない。そして写真ではわ…

『美しい星』三島由紀夫/人間の美しさを宇宙から説く

『美しい星』三島由紀夫 ★ 新潮文庫 2020.4.14読了 日本で1番美しい文章を書く人は誰かと聞かれたら、加賀乙彦さんや辻邦生さんも迷うのだが、やはり私は三島由紀夫さんと答えるだろう。もちろん、彼の描くストーリーや思想に心を突き動かされるのだが、文章…

『老乱』久坂部羊/介護させてくれてありがとう

『老乱』久坂部羊 朝日文庫 2020.4.13読了 認知症をテーマにした、作家であり医師でもある久坂部羊さんの小説である。妻の頼子を数年前に亡くし1人で暮らす78歳の幸造と、息子の知之とその妻雅美による2つの視点が交互になり物語が進む。 認知症による介護問…

『戦争は女の顔をしていない』スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ/女性も最前線で銃を撃つ

『戦争は女の顔をしていない』スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ 三浦みどり/訳 岩波現代文庫 2020.4.12読了 非常に重たい内容だった。読み終えた時に、ようやく終わったとホッとした。 途中から読み進めるのが辛くなってきたのだ。この本は、著者が500人…

『愛のゆくえ』リチャード・ブローティガン/不思議な図書館とそこで始まった愛

『愛のゆくえ』リチャード・ブローティガン 青木日出夫/訳 ハヤカワepi文庫 2020.4.11読了 村上春樹さんが多大なる影響を受けたというリチャード・ブローティガン氏。私は彼の本をまだ読んだことがなかったのだが、1番読みやすそうな本作をまずは選んでみた…

『球道恋々』木内昇/野球に飢えていたから小説で

『球道恋々』木内昇 新潮文庫 2020.4.10読了 木内さんの作品はもう読まないと思っていたのに、わからないものだ。直木賞受賞作『漂砂のうたう』は私にはあまり合わなくて、きっともう彼の作品は読むことはないだろうとタカをくくっていた。そもそも彼ではな…

『夜の谷を行く』桐野夏生/過去の心の重し

『夜の谷を行く』桐野夏生 文春文庫 2020.4.7読了 過去に連合赤軍の「山岳ベース」から逃れ、5年間の刑役を務めた啓子は身を隠すようにひっそりと暮らす63歳の女性。ある日熊谷という元同士の男性から電話が来る。忘れかけていた、いや忘れたかった過去の出…

『ペスト』カミュ/感染症は人間に教訓をもたらす

『ペスト』カミュ 宮崎嶺雄/訳 新潮文庫 2020.4.5読了 手帳に、気になる本や買おうとしている本をリスト化している。2〜3年前から『ペスト』もそこにあったのだが、1ヶ月くらい前にいざ買おうとしてみると、書店にもネット上にも姿を消していた。今世界を震…

『MISSING 失われているもの』村上龍/3本の光の束、陰の世界観

『MISSING 失われているもの』村上龍 新潮社 2020.4.3読了 これはなんといったらよいのだろう。小説と謳われているが、半分私小説か自伝のようだ。現在の村上龍さんの心持ちが強く表現されているように思う。 50代後半になり、不安を抱えた主人公が、幻覚を…

『荊の城』サラ・ウォーターズ/騙し騙されて

『荊(いばら)の城』上下 サラ・ウォーターズ 中村有希/訳 創元推理文庫 2020.3.31 読み始めたらすぐにディケンズの『オリヴァー・ツイスト』が出て来た。つい先日読んだばかりだから、盗賊ビル・サイクスの名前も覚えていた。そう、この『荊の城』は、イ…