書に耽る猿たち

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『千の輝く太陽』カーレド・ホッセイニ/アフガニスタンで生き抜くこと

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『千の輝く太陽』カーレド・ホッセイニ 土屋政雄/訳 ★★

ハヤカワepi文庫 2020.12.26読了

 

体中の細胞が動揺して鳥肌が立つようだ。マリアムとライラという2人の女性の生い立ち、生き方に胸が痛くなる。それでも、時にはその痛みがなりを潜め、ふとした優しさに安らぐ瞬間もある。読んでいる間はずっと心を揺さぶられていたが、読み終えた今は静謐で美しい感動の余韻に浸っている。素晴らしい小説だった。

分が産まれ育った国を愛しているのに、逃げ出したくなるという気持ちはどんなだろう。アフガニスタンに住むこの本の登場人物の想い。アフガニスタンといえば、長く続く紛争やタリバン政権、難民問題が思い浮かぶ。そして去年殺害された、アフガニスタンに用水路を作った中村哲さんのこと。

リアムもライラも、この時代に、この国に産まれて来なかったらきっとこんな苦しさを体験していない。心に残る作品は、たいてい不幸な身の上話が出てくるが、正直、こんなにも絶えず痛々しい気持ちになるのは稀だ。それでも、生きる喜びと光を求めて力の限り生きていく彼女たち。

の形はたくさんあるけれど、「親子の愛」をこの作品で著者は大事にしている。すべての親は、子どもを第一に想って生きる。子どものためなら、何を犠牲にすることも出来る。全てのアフガニスタンの子供たちに、著者は希望と夢を託しているかのよう。

この部屋は広すぎて息が詰まりそう、とマリアムは思った。胸に郷愁が湧いた。(77頁)

通なら「狭すぎて息が詰まりそう」なのだが、息が詰まる感覚は決して広さだけではない。その後に続く「胸に郷愁が湧いた」という文章から、今まで暮らしていた部屋が懐かしい、居心地が良かったとわかる。あぁ、なんかこの著者の文章好みだなと思った。訳もこなれているなと思ったら、カズオ・イシグロさんの作品を数多く手掛ける名訳者土屋政雄さんである。

著者のデビュー作にしてヒット作『君のためなら千回でも』がずっと気になっている。先日Twitterで挙げている方がいた。絶版であり中古本でもなかなか手に入りづらくて図書館に行くしかないようだ。ひとまず同著者のこの作品を読んでみたら、心を強く打たれた。ますます『君のためなら〜』を読みたくなる。というか、カーレドさんの作品を全て読みたい。これが、年に数回しかない本との素敵な出逢いなのです。