書に耽る猿たち

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『クララとお日さま』カズオ・イシグロ|人の心に寄り添うこと

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『クララとお日さま』カズオ・イシグロ 土屋政雄/訳 ★★★

早川書房 2021.5.6読了

 

ーベル文学賞受賞後、第1作目の長編小説である。カズオ・イシグロさんの本を単行本で購入したのは初めてかもしれない。やはり、イシグロさんはすごい。導入を少し読んだだけで気にいるとわかったし、AI Friendの世界に自分も入ることができた。素晴らしく心を揺さぶられた。読み心地も抜群で、至福の読書時間だった。

間ではないAIロボットのクララが主人公。クララの視点で物語が進む。ロボットというだけでも真新しいが、いつものイシグロさんの作品では大人が(それもある程度歳を重ねた)主人公なのに、今回は子供であるのが新鮮だ。それに、人口知能AIというのがまた時代を象徴している。

ララを含めてAF(人工親友)の基本的なエネルギーは太陽光である。太陽を浴びることで健康になり力を養う。クララにとってお日さまは生きる源であり、また信仰の対象にもなっているように思う。タイトルが「クララとジョジー」ではなく「クララとお日さま」であるのが良い。

ララがまだお店にいた頃、ウインドウ越しに見るタクシードライバーたち、物乞い、人間とAFが歩いている姿。一つ一つの出来事から、こんなにも考えさせられることはあるだろうか。イシグロさんは小さな出来事を絶妙な具合で文章にして読者に自ら考えることを課す。

ララはジョジーの家に暮らすことになる。病弱のジョジーは、日によって気分がすぐれなくなったりおかしくなることがあるという。それでも、クララの鋭い観察力と高い知能、そして何よりもとびきりの優しさから2人の友情は育まれていく。クララは常に、ジョジーにとって最良最善のことは何かを考えるのだ。

AIロボットなのに、こんなにも心が通っているクララはもはや人間以上に思える。しかしロボットに「人の心」がわかるのだろうか。いくら知能が発達し色々な動作が出来るようになっても、感情だけは生まれないのではないか。生まれるとしたら、人間の心を絶えず観察し読み取り学ぶということ。でも「こういう時はこんな感情になる」というプログラムがインプットされるだけ。本当の人間の気持ちはそんなに簡単ではない。一筋縄ではないのが人間の心だ。

けど、ロボットだから人の気持ちがわからないわけではなく、私たち人間も、他人の気持ちを本当の意味ではわからないのではないか。それでも、相手の心を知りたい、想像したい、と思い寄り添おうとすることは出来る。それが出来るのならば、人間とロボットは同じ世界で友達にでも何だってなれる。

まで読んだイシグロさんの作品の中で、私にとって間違いなくNo. 1である。それに一番読みやすい小説だと思う。イシグロさんは大変人気のある作家であるが、読みにくいとかつまらなく感じるという人もいるだろう。そんな人でもこの本は感動できるだろうし、もちろんまだイシグロさんの作品を読んだことがない人にも超絶読んで欲しい。

の本は装丁がまた素晴らしい。まるで絵本のように、クララとお日さまを思わせる装画がカバーにまるっと描かれているのだが、紙のカバーを外した本そのものも素敵である。読んだ後だから尚更思えるのは、この本を持っているただそれだけで幸せな気分になれるということ。

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