書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『彼女がエスパーだったころ』宮内悠介|ルポタージュ風の小説集

f:id:honzaru:20210507073751j:image

『彼女がエスパーだったころ』宮内悠介

講談社文庫 2021.5.8読了

 

内悠介さんのことはずっと気になっていた。鬼才大才と呼ばれている。本を読んでいて、この著者は天才だなと思ったのは、最近だと小川哲さんだ。『ゲームの王国』を読んだ時は、どうしたらこの物語世界を、この登場人物を生み出せるのかと小川さんの才能に脱帽した。 

honzaru.hatenablog.com

の本は表題作を含む6作の短編が収められている。ノンフィクションのルポタージュのような体をなすフィクションである。インタビューする人物はどれも共通なのだろうか。著者の宮内さんによれば「疑似科学シリーズ」と名付けているそう。科学では捉えきれない題材を通し、SFのようなミステリのようなちょっと変わった作風で、どれもなかなかおもしろく読めた。

るほど、確かに文体だけ目にしても才能を感じられる。ときおりハッとするような文章がある。切れ味鋭い文体と洞察力、「そう来るか」という展開。普通の作家からはあまり出てこないような単語がぞくぞくと出てくるのが、知識の幅を感じさせ、頭の良い方なんだろうと思わせる。

を起こす猿の生態を探った『百匹目の火神』と、終末医療として死を待つ「白樺荘」という施設の謎に迫った『薄ければ薄いほど』が個人的にはおもしろかった。 こうやって紹介していても、小説というよりドキュメンタリーのように聞こえるかもしれない。

ごく好みかと聞かれるとそういうわけでもないのだが、何故か気になり時おり読みたくなりそうな予感がする。単行本刊行時に妙に興味をそそられた『あとは野となれ大和撫子』は文庫化されたら読みたい。