書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

国内(ま行の作家)

『銀河鉄道の父』門井慶喜/あの宮沢賢治を育て見守った父の姿

『銀河鉄道の父』門井慶喜 講談社文庫 2020.4.25読了 宮沢賢治さんといえば、誰もが知っている童話や詩を書く国民的作家であり、岩手の理想郷イーハトーブが思い浮かぶ。私も一度岩手に旅行で訪れた時に、イーハトーブをモチーフにした広大な公園に行ったこ…

『龍は眠る』宮部みゆき/サイキックは生きづらい

『龍は眠る』宮部みゆき ★ 新潮文庫 2020.4.18読了 先月読んだ『魔術はささやく』に次いで、これも宮部みゆきさんのかなり初期、1992年に書かれた作品だ。およそ30年前かぁ、こう考えると宮部さんは、筆力が衰えることもなくずっと第一線で活躍されていて本…

『美しい星』三島由紀夫/人間の美しさを宇宙から説く

『美しい星』三島由紀夫 ★ 新潮文庫 2020.4.14読了 日本で1番美しい文章を書く人は誰かと聞かれたら、加賀乙彦さんや辻邦生さんも迷うのだが、やはり私は三島由紀夫さんと答えるだろう。もちろん、彼の描くストーリーや思想に心を突き動かされるのだが、文章…

『愛のゆくえ』リチャード・ブローティガン/不思議な図書館とそこで始まった愛

『愛のゆくえ』リチャード・ブローティガン 青木日出夫/訳 ハヤカワepi文庫 2020.4.11読了 村上春樹さんが多大なる影響を受けたというリチャード・ブローティガン氏。私は彼の本をまだ読んだことがなかったのだが、1番読みやすそうな本作をまずは選んでみた…

『MISSING 失われているもの』村上龍/3本の光の束、陰の世界観

『MISSING 失われているもの』村上龍 新潮社 2020.4.3読了 これはなんといったらよいのだろう。小説と謳われているが、半分私小説か自伝のようだ。現在の村上龍さんの心持ちが強く表現されているように思う。 50代後半になり、不安を抱えた主人公が、幻覚を…

『魔術はささやく』宮部みゆき/読者が宮部さんの魔術にかかる

『魔術はささやく』宮部みゆき 新潮文庫 2020.3.3読了 宮部さんの作品は数え切れないほど読んでいるのに、思えば、宮部さんの作家生活でかなり初期にあたる本作はまだ未読だった。この作品で1989年に日本推理サスペンス大賞を受賞している。 なんだか松本清…

『極北』マーセル・セロー/生まれた世界に生きるしかない

『極北』マーセル・セロー 村上春樹/訳 中公文庫 2020.2.19読了 先日書店で目に留まった一冊。なんだか最近、寒い感じの本を選んでしまう。冬だからかなぁ。でも寒さを感じる本の中に熱いエネルギーを感じられる、そんな作品は素敵だ。 不思議な作品である…

『みみずくは黄昏に飛びたつ』川上未映子・村上春樹/小説は信用取引で成り立つ

『みみずくは黄昏に飛びたつ 川上未映子 訊く/村上春樹 語る』 川上未映子・村上春樹 新潮文庫 2019.12.10読了 村上春樹さんの小説のなかで、私の一番のお気に入りは、『騎士団長殺し』である。刊行されたのとほぼ同じくして、この対談集も単行本で書店に並…

『この世の春』宮部みゆき/時代ものファンタジー、するりと物語世界へ

『この世の春』上中下 宮部みゆき 新潮文庫 2019.12.6読了 宮部みゆきさんの小説を読むのは久しぶりである。『小暮写真館』以来か、はたまた、文庫で読んだ『荒神』以来かもしれない。何となく、宮部節を読みたくなり手に取った。 今回の小説は時代小説だ。…

『戦後日記』 三島由紀夫 / 彼の華やかな日常とこだわりの数々

『戦後日記』 三島由紀夫 中公文庫 2019.7.28読了 三島由紀夫さんの日記作品集が中公文庫から刊行された。昭和23年から42年までの間に、日記の体裁で書かれたエッセイを集めたものである。三島さんの小説は大好きでよく読むのだが、小説以外をじっくり読んだ…

『本格小説』 水村美苗 / 狂愛の物語・狂えるものがあるって感動的だと思う

『本格小説』上・下 水村美苗 ★★ 新潮文庫 2019.7.8 読了 やはり、面白かった。この小説を読むのは2回目である。10年以上前に読んだ時にも興奮したことを覚えているが、再読してもやはり物語世界に貪るように入っていけて、読んでいる間はじっくりと堪能す…

『めくらやなぎと眠る女』 村上春樹 / 短編集との付き合い方

『めくらやなぎと眠る女』 村上春樹 新潮社 2019.5.25読了 まさに、ジャケ買いである。短編集は滅多に読みたい気持ちにならないのだが、こんなカッコいいソフトカバーはあまりお目にかかれず、つい手に取る。これは、ニューヨーク発の村上春樹短編集第2弾で…

『バベル九朔』 万城目学 / 万城目ワールドの不思議

『バベル九朔』 万城目学 角川文庫 2019.4.30読了 雑居ビルの管理人をしながら小説家を目指す"俺”の物語。謎のカラス女が発端となり、バベルの塔さながら、本来は5階までしかないはずのビルの上階部分へとどんどん導かれていく。表紙をめくると著者紹介のと…

『黙約』 ドナ・タート / 人の気持ちは変わるけれど変わらない

『黙約』 上下 ドナ・タート 吉浦澄子/訳 ★★★ 新潮文庫 2019.3.2 読了 読んでいる間は勿論のこと、読み終えた後しばらくの間も興奮が冷めやらないほど、久しぶりに夢中になれる本に出会えた。1月に『村上さんのところ』を読んで村上春樹さんがドナ・タート…

『クロコダイル路地』 皆川博子 / 自分に合わない本はどうするか?

『クロコダイル路地』 皆川博子 講談社文庫 2019.1.30読了 いや、読了したとは言えず、もはや目を通しただけのレベル。 文庫本なのにこの分厚さ、そして随所に挟み込まれたゴシック調のイラスト、そして超強気なこの価格(1,850円!講談社文芸文庫、学術文庫…

『村上さんのところ』村上春樹 / 小説のかたち

『村上さんのところ』 村上春樹 新潮文庫 2019.1.26 読了 2015年1月~5月の期間限定サイトによる、村上春樹さんとのメールのやりとり。その中から選りすぐった473通が収録されている。 いつもながら村上さんの文章は心地よい。数日前にどっぷり浸かる小説を…

「蔵」 宮尾登美子

「蔵」上・下 宮尾登美子 ○ 中公文庫 2019.1.10読了 宮尾さんの文章には、やはり、貫禄がある。いつものように、これでもかという位の試練が立ち塞がり、それを乗り越えていく女性の生き方が描かれている。 映画化、ドラマ化、舞台化もされており、烈という…