書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

国内(ま行の作家)

『悲嘆の門』宮部みゆき/言葉の持つ力

『悲嘆の門』上中下 宮部みゆき 新潮文庫 2020.6.2読了 大学の先輩に誘われ、サイバー・パトロール会社でアルバイトをすることになった大学生の三島孝太郎。ネット社会の闇を調べるうちに、世間を賑わしている連続殺人事件だけでなく身の回りにも事件が起こ…

『絹と明察』三島由紀夫/ワンマン経営者と社員らの関係

『絹と明察』三島由紀夫 新潮文庫 2020.5.27読了 近江絹糸(おうみけんし)争議とは、昭和29年に実際に起こった大阪の絹糸紡績の労働人権争議である。近隣の高校卒業生を強制的に入社させて工場で働かせたり、結婚したら女性は退社、男性も転勤か退社、寮生…

『銀河鉄道の父』門井慶喜/あの宮沢賢治を育て見守った父の姿

『銀河鉄道の父』門井慶喜 講談社文庫 2020.4.25読了 宮沢賢治さんといえば、誰もが知っている童話や詩を書く国民的作家であり、岩手の理想郷イーハトーブが思い浮かぶ。私も一度岩手に旅行で訪れた時に、イーハトーブをモチーフにした広大な公園に行ったこ…

『龍は眠る』宮部みゆき/サイキックは生きづらい

『龍は眠る』宮部みゆき ★ 新潮文庫 2020.4.18読了 先月読んだ『魔術はささやく』に次いで、これも宮部みゆきさんのかなり初期、1992年に書かれた作品だ。およそ30年前かぁ、こう考えると宮部さんは、筆力が衰えることもなくずっと第一線で活躍されていて本…

『美しい星』三島由紀夫/人間の美しさを宇宙から説く

『美しい星』三島由紀夫 ★ 新潮文庫 2020.4.14読了 日本で1番美しい文章を書く人は誰かと聞かれたら、加賀乙彦さんや辻邦生さんも迷うのだが、やはり私は三島由紀夫さんと答えるだろう。もちろん、彼の描くストーリーや思想に心を突き動かされるのだが、文章…

『愛のゆくえ』リチャード・ブローティガン/不思議な図書館とそこで始まった愛

『愛のゆくえ』リチャード・ブローティガン 青木日出夫/訳 ハヤカワepi文庫 2020.4.11読了 村上春樹さんが多大なる影響を受けたというリチャード・ブローティガン氏。私は彼の本をまだ読んだことがなかったのだが、1番読みやすそうな本作をまずは選んでみた…

『MISSING 失われているもの』村上龍/3本の光の束、陰の世界観

『MISSING 失われているもの』村上龍 新潮社 2020.4.3読了 これはなんといったらよいのだろう。小説と謳われているが、半分私小説か自伝のようだ。現在の村上龍さんの心持ちが強く表現されているように思う。 50代後半になり、不安を抱えた主人公が、幻覚を…

『魔術はささやく』宮部みゆき/読者が宮部さんの魔術にかかる

『魔術はささやく』宮部みゆき 新潮文庫 2020.3.3読了 宮部さんの作品は数え切れないほど読んでいるのに、思えば、宮部さんの作家生活でかなり初期にあたる本作はまだ未読だった。この作品で1989年に日本推理サスペンス大賞を受賞している。 なんだか松本清…

『極北』マーセル・セロー/生まれた世界に生きるしかない

『極北』マーセル・セロー 村上春樹/訳 中公文庫 2020.2.19読了 先日書店で目に留まった一冊。なんだか最近、寒い感じの本を選んでしまう。冬だからかなぁ。でも寒さを感じる本の中に熱いエネルギーを感じられる、そんな作品は素敵だ。 不思議な作品である…

『みみずくは黄昏に飛びたつ』川上未映子・村上春樹/小説は信用取引で成り立つ

『みみずくは黄昏に飛びたつ 川上未映子 訊く/村上春樹 語る』 川上未映子・村上春樹 新潮文庫 2019.12.10読了 村上春樹さんの小説のなかで、私の一番のお気に入りは、『騎士団長殺し』である。刊行されたのとほぼ同じくして、この対談集も単行本で書店に並…

『この世の春』宮部みゆき/時代ものファンタジー、するりと物語世界へ

『この世の春』上中下 宮部みゆき 新潮文庫 2019.12.6読了 宮部みゆきさんの小説を読むのは久しぶりである。『小暮写真館』以来か、はたまた、文庫で読んだ『荒神』以来かもしれない。何となく、宮部節を読みたくなり手に取った。 今回の小説は時代小説だ。…

『戦後日記』 三島由紀夫 / 彼の華やかな日常とこだわりの数々

『戦後日記』 三島由紀夫 中公文庫 2019.7.28読了 三島由紀夫さんの日記作品集が中公文庫から刊行された。昭和23年から42年までの間に、日記の体裁で書かれたエッセイを集めたものである。三島さんの小説は大好きでよく読むのだが、小説以外をじっくり読んだ…

『本格小説』 水村美苗 / 狂愛の物語・狂えるものがあるって感動的だと思う

『本格小説』上・下 水村美苗 ★★ 新潮文庫 2019.7.8 読了 やはり、面白かった。この小説を読むのは2回目である。10年以上前に読んだ時にも興奮したことを覚えているが、再読してもやはり物語世界に貪るように入っていけて、読んでいる間はじっくりと堪能す…

『めくらやなぎと眠る女』 村上春樹 / 短編集との付き合い方

『めくらやなぎと眠る女』 村上春樹 新潮社 2019.5.25読了 まさに、ジャケ買いである。短編集は滅多に読みたい気持ちにならないのだが、こんなカッコいいソフトカバーはあまりお目にかかれず、つい手に取る。これは、ニューヨーク発の村上春樹短編集第2弾で…

『バベル九朔』 万城目学 / 万城目ワールドの不思議

『バベル九朔』 万城目学 角川文庫 2019.4.30読了 雑居ビルの管理人をしながら小説家を目指す"俺”の物語。謎のカラス女が発端となり、バベルの塔さながら、本来は5階までしかないはずのビルの上階部分へとどんどん導かれていく。表紙をめくると著者紹介のと…

『黙約』 ドナ・タート / 人の気持ちは変わるけれど変わらない

『黙約』 上下 ドナ・タート 吉浦澄子/訳 ★★★ 新潮文庫 2019.3.2 読了 読んでいる間は勿論のこと、読み終えた後しばらくの間も興奮が冷めやらないほど、久しぶりに夢中になれる本に出会えた。1月に『村上さんのところ』を読んで村上春樹さんがドナ・タート…

『クロコダイル路地』 皆川博子 / 自分に合わない本はどうするか?

『クロコダイル路地』 皆川博子 講談社文庫 2019.1.30読了 いや、読了したとは言えず、もはや目を通しただけのレベル。 文庫本なのにこの分厚さ、そして随所に挟み込まれたゴシック調のイラスト、そして超強気なこの価格(1,850円!講談社文芸文庫、学術文庫…

『村上さんのところ』村上春樹 / 小説のかたち

『村上さんのところ』 村上春樹 新潮文庫 2019.1.26 読了 2015年1月~5月の期間限定サイトによる、村上春樹さんとのメールのやりとり。その中から選りすぐった473通が収録されている。 いつもながら村上さんの文章は心地よい。数日前にどっぷり浸かる小説を…

「蔵」 宮尾登美子

「蔵」上・下 宮尾登美子 ○ 中公文庫 2019.1.10読了 宮尾さんの文章には、やはり、貫禄がある。いつものように、これでもかという位の試練が立ち塞がり、それを乗り越えていく女性の生き方が描かれている。 映画化、ドラマ化、舞台化もされており、烈という…