書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

外国(カ行の作家)

『ゴルフ場殺人事件』アガサ・クリスティー|ポアロとジロー、ポアロとヘイスティングス

『ゴルフ場殺人事件』アガサ・クリスティー 田村義進/訳 早川書房[クリスティー文庫] 2022.7.17読了 エルキュール・ポアロシリーズ1作目『スタイルズ荘の怪事件』に続く2作目である。ポアロの友人ヘイスティングスが語る構成は、初回と同じである。それに…

『食べて、祈って、恋をして』エリザベス・ギルバート|自分を見つめ直し精神のバランスを取る

『食べて、祈って、恋をして』エリザベス・ギルバート 那波かおり/訳 早川書房[ハヤカワノンフィクション文庫] 2022.5.15読了 ジュリア・ロバーツ主演の同名映画がとても良かったと最近私の耳に入った。映画自体は2010年に放映された。その原作がこの本で…

『メキシカン・ゴシック』シルヴィア・モレノ=ガルシア|館で起こる怪奇世界にようこそ

『メキシカン・ゴシック』シルヴィア・モレノ=ガルシア 青木純子/訳 ★ 早川書房 2022.5.9読了 ゴシック小説の定義はよくわからないけど、とにかく最初から最後までとてもおもしろく読めた。ストーリー性と重厚さを併せ持つ作品には最近巡り合っていなかった…

『秘密機関』アガサ・クリスティー|何者をも恐れず突き進む精神

『秘密機関』アガサ・クリスティー 嵯峨静江/訳 早川書房[ハヤカワクリスティー文庫] 2022.5.5読了 ポアロでもミス・マープルでもないクリスティーさんのもう一つのシリーズものが「トミー&タペンス」で、その1作目がこの『秘密機関』である。私もここま…

『メソポタミヤの殺人』アガサ・クリスティー|ポアロのやり方には隙がない

『メソポタミヤの殺人』アガサ・クリスティー 田村義進/訳 早川書房[ハヤカワクリスティー文庫] 2022.4.29読了 メソポタミ「ヤ」ではなくメソポタミ「ア」ではないのかな?メソポタミア文明と習ったし通常メソポタミアと発音している気がする。どうでもい…

『動物会議』エーリヒ・ケストナー|子どものために戦争をやめよう|トリアーさんの素敵な絵

『動物会議』エーリヒ・ケストナー ヴァルター・トリアー/絵 池田香代子/訳 岩波書店 2022.3.10読了 ドイツで1949年に出版された絵本で、日本でもロングセラーとして読まれている。ケストナーさんといえば『飛ぶ教室』『ふたりのロッテ』が有名であるが、…

『変身』フランツ・カフカ|読みながら別のことを考える

『変身』フランツ・カフカ 川島隆/訳 角川書店[角川文庫] 2022.3.4読了 もう20年以上前に読んだはずなのに、目覚めたら自分が虫になっていたという冒頭のシーンが強烈でその後どうなったかをすっかり忘れていた。ひょっとすると全部読んでいなかったのか…

『マイケル・K』J.M.クッツェー|カボチャを愛おしく食べ、自然を自由に生きる

『マイケル・K』J.M.クッツェー くぼたのぞみ/訳 岩波文庫 2022.2.16読了 タイトルの『マイケル・K』というのは、主人公の名前である。姓をKと略して表現しているのがなんともおもしろい。障害を持つ彼が辿った運命がただひたすらに書き連ねられた物語だ。…

『火刑法廷』ジョン・ディクスン・カー|導入部が素晴らしく引き込まれる

『火刑法廷』ジョン・ディクスン・カー 加賀山卓朗/訳 ハヤカワ文庫 2022.2.13読了 火刑法廷とは、17世紀のフランスで行われた裁判の一種で、魔女、毒殺者と目された人物を火刑にするために開かれた。被告は拷問に付され、死体は火で焼かれたとされる(Wiki…

『火曜クラブ』アガサ・クリスティー|人間なんてみんな似たりよったり

『火曜クラブ』アガサ・クリスティー 中村妙子/訳 ハヤカワ文庫 2022.1.29読了 今年1冊めのクリスティー作品は短編集を選んだ。ミス・マープルものの短編であるが、去年読んだリチャード・オスマン著『木曜殺人クラブ』の設定にそっくりなこと。というか、…

『郵便配達は二度ベルを鳴らす』ケイン|読み終えたあとにじわじわと

『郵便配達は二度ベルを鳴らす』ジェイムズ・M・ケイン 池田真紀子/訳 光文社古典新訳文庫 2022.1.22読了 どうやらこの作品は何度も映画化されているようだ。流浪のフランクは、たまたま立ち寄ったレストランで働く美貌のコーラに惹かれる。このレストラン…

『ベルリン3部作』クラウス・コルドン|より良い世界に変えていくために

『ベルリン3部作』クラウス・コルドン 酒寄進一/訳 岩波少年文庫 2021.12.3読了 ずっと読みたかったコルドンさんの『ベルリン3部作』を読んだ。これは児童文学のカテゴリーで岩波少年文庫から刊行されている。侮ることなかれ、名作の多い岩波少年文庫、や…

『鏡は横にひび割れて』アガサ・クリスティー|マープルは安楽椅子探偵さながら

『鏡は横にひび割れて』アガサ・クリスティー 橋本福夫/訳 ハヤカワ文庫 2021.11.26読了 クリスティーさんの作品群のなかには、タイトルが斬新で目立つものが何冊かある。この作品もその一つだ。ミス・マープルシリーズの8作めである。 導入はミス・マープ…

『皇帝のかぎ煙草入れ』ジョン・ディクスン・カー|日本語以上に流暢な文章で傑作ミステリを

『皇帝のかぎ煙草入れ』ジョン・ディクスン・カー 駒月雅子/訳 創元推理文庫 2021.11.3読了 この作品はジョン・ディクスン・カーの多くの小説の中でも名作と名高く、そのトリックはアガサ・クリスティーをも脱帽させたと言わしめている。クリスティー作品を…

『ウォーターダンサー』タナハシ・コーツ|未だなお続く差別問題

『ウォーターダンサー』タナハシ・コーツ 上岡伸雄/訳 新潮クレスト・ブックス 2021.10.31読了 美しい装丁である。そしてタイトルもまた美しい。だけど、この美しい本の中に書かれているのは、自由を奪われたアメリカ南部の奴隷制度のことだ。現代でもなお…

『自転車泥棒』呉明益|心を込めて修理し、大切に使われるモノ

『自転車泥棒』呉明益 天野健太郎/訳 文春文庫 2021.10.21読了 台湾の情景を想像すると、なぜか懐かしく感じる。一度しか行ったことがないのに何故「懐かしさ」を感じるのだろうか。おそらく過去に台湾を舞台にした小説を読みそう感じたのだろう。台湾の歴…

『アサイラム・ピース』アンナ・カヴァン|書くことで救われたように、読むことで救われるだろう

『アサイラム・ピース』アンナ・カヴァン 山田和子/訳 ちくま文庫 2021.9.30読了 一度読んだらその文体の虜になると言われているアンナ・カヴァンさん。代表作『氷』よりもまず先に、本名からアンナ・カヴァン名義に変えて最初の作品である本作を読んだ。 …

『そして誰もいなくなった』アガサ・クリスティー|1番有名な作品

『そして誰もいなくなった』アガサ・クリスティー 青木久惠/訳 ハヤカワ文庫 2021.9.4読了 クリスティーさんの作品ではおそらく1番有名なのではないだろうか。例え読んだことがなくても、タイトルだけは知っているはずだ。各国で映画化ドラマ化され、オマー…

『複眼人』呉明益|地球規模のファンタジー

『複眼人』呉明益(ご・めいえき) 小栗山智/訳 KADOKAWA 2021.8.23読了 東京オリンピック2020で新しく「サーフィン」が競技登録された。まだ記憶に新しいと思うが、男子サーフィンで見事銀メダルを獲得した五十嵐カノアさんが、競技終了後に海に向かってひ…

『予告殺人』アガサ・クリスティー|殺人をお知らせします

『予告殺人』アガサ・クリスティー 羽田詩津子/訳 ハヤカワ文庫 2021.6.7読了 ある地方新聞誌の朝刊の広告欄に殺人の予告が出る。これがこの小説の始まり。新聞の広告といえば、求人だったり人探しだったり、昔はペンフレンド募集なんてのもあった気がする…

『五匹の子豚』アガサ・クリスティー|回想殺人|絶対おすすめ

『五匹の子豚』アガサ・クリスティー 山本やよい/訳 ★ ハヤカワ文庫 2021.5.4読了 クリスティーさんの作品は、有名なものはほとんど読んでしまったからかしばらく遠のいていたのだけれど、有名でなくともおもしろい!ということを証明する作品だった。とは…

『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ|郷愁と別れ、記憶について

『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ 土屋政雄/訳 ハヤカワepi文庫 2021.2.11読了 久しぶりにカズオ・イシグロさんの本を読んだ。この本は2回めの読了だ。イシグロさんがノーベル文学賞を受賞するずっと前、綾瀬はるかさんが同名のテレビドラマを演じる…

『ヒューマン・ファクター』グレアム・グリーン/人間が守りたいもの

『ヒューマン・ファクター』グレアム・グリーン 加賀山卓朗/訳 ハヤカワepi文庫 2021.1.16読了 先日、ジョン・ル・カレさんが亡くなった。彼の『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』というスパイ小説の傑作と名高い作品を読もうかと意気込んでいた…

『風の影』カルロス・ルイス・サフォン/本にまつわるファンタジー

『風の影』上下 カルロス・ルイス・サフォン 木村裕美/訳 集英社文庫 2020.12.28読了 スペインの国民作家、カルロス・ルイス・サフォン氏が今年6月に亡くなられた。追悼として書店に平積みされるまで、私は彼のことはもちろん作品さえ知らなかった。「忘れ…

『千の輝く太陽』カーレド・ホッセイニ/アフガニスタンで生き抜くこと

『千の輝く太陽』カーレド・ホッセイニ 土屋政雄/訳 ★★ ハヤカワepi文庫 2020.12.26読了 身体中の細胞が動揺して鳥肌が立つようだ。マリアムとライラという2人の女性の生い立ち、生き方に胸が痛くなる。それでも、時にはその痛みがなりを潜め、ふとした優し…

『ヴィルヘルム・マイスターの修行時代』ゲーテ/自己満足だけどなぜか読みたくなる

『ヴィルヘルム・マイスターの修行時代』上中下 ゲーテ 山崎章甫/訳 岩波文庫 2020.12.7読了 ドイツの文豪ゲーテ。トーマス・マン氏やヘルマン・ヘッセ氏の本は読んでいるけど、実はゲーテ作品はまだ読んだことがない。ゲーテといえば『ファウスト』なんだ…

『地下鉄道』コルソン・ホワイトヘッド/かつて黒人奴隷が生き延びるために

『地下鉄道』コルソン・ホワイトヘッド 谷崎由依/訳 ハヤカワepi文庫 2020.10.25読了 この本、単行本刊行当時からずっと気になっていた。長らく買おうか迷っていたのだが、今月の文庫本新刊コーナーに平積みされていて迷わずゲット。最近、文庫になるのが目…

『心は孤独な狩人』カーソン・マッカラーズ/誰もが抱える孤独

『心は孤独な狩人』カーソン・マッカラーズ 村上春樹/訳 新潮社 2020.10.1読了 こんな帯の文句が書かれていたら、村上春樹さんのファンは読みたくなるもの。 たとえ、カーソン・マッカラーズさんの名前を知らなくても、フィッツジェラルド、サリンジャーと…

『ペスト』カミュ/感染症は人間に教訓をもたらす

『ペスト』カミュ 宮崎嶺雄/訳 新潮文庫 2020.4.5読了 手帳に、気になる本や買おうとしている本をリスト化している。2〜3年前から『ペスト』もそこにあったのだが、1ヶ月くらい前にいざ買おうとしてみると、書店にもネット上にも姿を消していた。今世界を震…

『恥辱』J・M・クッツェー/都会と田舎の対比

『恥辱』J・M・クッツェー 鴻巣友季子/訳 ハヤカワepi文庫 2020.3.22読了 ノーベル文学賞を受賞しているが、まだ読んだことのないオランダ系南アフリカ人の作家さんだ。本作『恥辱』は書店でたまに見かける。恥辱とは、辱しめを受けること。52歳の大学教…