『影に対して 母をめぐる物語』遠藤周作 新潮社[新潮文庫] 2023.3.18読了 遠藤周作さん没後、しかも2020年という最近になってから『影に対して』の原稿が発見された。作者自身の略歴をたどればわかるように、実際の体験を元にして母親の郁をイメージにした…
『樋口一葉赤貧日記』伊藤氏貴 中央公論新社 2023.3.16読了 先日川上未映子さんがTwitterでこの本をおすすめしていた。確か新幹線での移動中で2巡目を読んでいたと思う。川上さんは樋口一葉著『たけくらべ』の口語訳も手掛けているから思い入れも強いはずだ…
『インドへの道』E・M・フォースター 小野寺健/訳 河出書房新社[河出文庫] 2023.3.14読了 ストーリー性がある『ハワーズ・エンド』や『モーリス』から読むべきだとわかっていたのに、難解とされている『インドへの道』からE・M・フォースターさんの作品に…
『太陽の男 石原慎太郎伝』猪瀬直樹 中央公論新社 2023.3.12読了 石原慎太郎さんが亡くなって約1年、元東京都知事で作家の猪瀬直樹さんが石原さんの評伝を執筆した。作家としての石原さんと猪瀬さんは、三島由紀夫さんのことを本に残しているという共通点が…
『少将滋幹(しげもと)の母 他三篇』谷崎潤一郎 中央公論新社[中公文庫] 2023.3.11読了 谷崎潤一郎さんの代表作のひとつである『少将滋幹の母』と他3つの短編が収められた豪華な文庫本である。小倉遊亀さんという画家による原画からとりなおした挿絵がた…
『郵便局』チャールズ・ブコウスキー 都甲幸治/訳 光文社[光文社古典新訳文庫] 2023.3.8読了 酒に煙草に女に賭け事に…、自堕落で最低な暮らしをしている男だなと思いながらも、どこか憎めない、ある種自由奔放なこの人間らしさにいつの間にか魅了されてし…
『ラーメンカレー』滝口悠生 ★ 文藝春秋 2023.3.7読了 たいていの人と同じように、私もラーメンとカレーは大好きだ。けれどこの2つが一緒になったらどうなんだろう。ラーメンが先に来てるから、ラーメン風のカレーということか?タイトルも気になるし、広い…
街区の再開発のため、東京駅八重洲口にある「八重洲ブックセンター」が今月末で営業を終了する。都内では神保町の三省堂書店、渋谷の丸善&ジュンク堂をはじめ、大型書店がまたしてもなくなることに、悲しみを隠しきれない。 西村賢太さんが亡くなられて一周…
『待ち遠しい』柴崎友香 毎日新聞出版[毎日文庫] 2023.2.5読了 最近日本の小説で読むのは圧倒的に女性作家の作品が多い気がする。それに、多くの文学賞でも選考されるのは女性作家のものが増えているし、日本でも海外でも、作家という枠組みだけではなく色…
『ミダック横町』ナギーブ・マフフーズ 香戸精一/訳 作品社 2023.3.2読了 ピラミッドや古代エジプトをテーマにしたミステリ小説は見かけるが、エジプト人作家が書いた本なんて読んだことあるだろうか。書店の新刊コーナーにあったこの本の帯に「カイロの下…
『傲慢と善良』辻村深月 朝日新聞出版[朝日文庫] 2023.2.28読了 結婚披露宴の予定も決まり、もうすぐ夫婦となるはずだった架(かける)と真実(まみ)。しかし、突然真実が失踪してしまう。少し前から、真実からストーカーの存在を打ち明けられていた架は…
『ホワイトノイズ』ドン・デリーロ 戸甲幸治・日吉信貴/訳 水声社 2023.2.26読了 ドン・デリーロの代表作である『ホワイトノイズ』は全米図書賞を受賞した作品である。邦訳は元々集英社から刊行されていたが、絶版となり中古本はかなりの値がついている。こ…
『香港陥落』松浦寿輝 講談社 2023.2.23読了 過去に香港旅行に行った時、その煌びやかな夜景に圧倒された。今でも九龍半島の高架道から香港島の夜景を鑑賞する「シンフォニー・オブ・ライツ」の映像がまざまざと蘇る。しかし一番思い出すのは、外気温と建物…
『頬に哀しみを刻め』S・A・コスビー 加賀山拓朗/訳 ハーパーコリンズ・ジャパン[ハーパーBOOKS]2023.2.21読了 ひたすら暴力的で、血のにおいがつきまとう。読んでいて目を覆うような場面も多かったが、ミステリーとしての仕掛けや疾走感あふれるストーリ…
『イリノイ遠景近景』藤本和子 筑摩書房[ちくま文庫] 2023.2.19読了 昨年末に読んだトニ・モリスン著『タール・ベイビー』の訳者が藤本和子さんで、そうだ、このエッセイを読もうかなと思っていた。他の本をつまみ食いしていて忘れかけていたのだが、先日…
『望楼館追想』エドワード・ケアリー 古屋美登里/訳 ★ 東京創元社[創元文芸文庫] 2023.2.18読了 どうやら東京創元社の文庫レーベルに新しく「創元文芸文庫」というものが刊行されたようで、翻訳部門の第一弾がこの作品だ。エドワード・ケアリーといえばア…
『鉄道小説』乗代雄介・温又柔・澤村伊智・滝口悠生・能町みね子 ★ 交通新聞社 2023.2.16読了 豪華すぎるこの共演!仮に知っている作家が滝口悠生さんだけだったとしても買うだろうけど、乗代雄介さん、温又柔さんもいるなんて。この本の出版元はなんと交通…
『サンクチュアリ』ウィリアム・フォークナー 加島祥造/訳 新潮社[新潮文庫] 2023.2.15読了 先月コロナウイルスに感染してしまったとき、何故か無性に中上健次やフォークナーの小説が読みたくなった。身体も心も弱っていたから、粘つくような力強い物語を…
『松雪先生は空を飛んだ』上下 白石一文 KADOKAWA 2023.2.13読了 白石一文さんの最新刊、ソフトカバーで上下巻。白石さんにしてはかなりのエンタメ寄りで、路線変更したのかなと思うほど軽やかで、今までの長編の中でダントツに読みやすい。 銚子太郎が新入…
『指差す標識の事例』上下 イーアン・ペアーズ 池央耿・東江一紀・宮脇孝雄・日暮雅通/訳 東京創元社[創元推理文庫] 2023.2.11読了 これ、実はずっと気になっていた小説。タイトルが秀逸で内容もおもしろそうなのだが、何より目を見張るのが訳者が4人もい…
『たおやかに輪をえがいて』窪美澄 中央公論新社[中公文庫] 2023.2.6読了 自分とは立場が異なるのに、どうしてこんなにも共感できるんだろう。絵里子の行動、感情に他のなにものかが入り込む余地がない。おそらく、最初から絵里子の一挙手一投足、感情の全…
『小説帝銀事件 新装版』松本清張 KADOKAWA[角川文庫] 2023.2.5読了 最近のテレビはおもしろくないから、ニュースとスポーツしかほぼ見ていない。たまに未解決事件かなんかのドキュメント番組をがあると、ついつい見てしまうことがある。先日も福田和子の…
『しろがねの葉』千早茜 ★★ 新潮社 2023.2.4読了 千早茜さんの小説は過去に1冊だけ読んだことがある。女性ならではの細やかな表現が際立ち、何よりもとても読みやすかった。しかし他の作品をなかなか手にする機会がなく。今回読んだのは、ずばり直木賞受賞作…
『僕は珈琲』片岡義男 光文社 2023.2.1読了 なんて味わい深い文章を書く人なんだろう。淡々とした中にも、読み手が想像を巡らせてしまう独特の空気がある。片岡義男さんの短編を読んだある編集者から「出来事だけが物語のなかに書いてある。筆者の気持ちをい…
『眠れる美女たち』上下 スティーヴン・キング オーウェン・キング 白石朗/訳 文藝春秋[文春文庫] 2023.1.31読了 久しぶりのキング作品!本の最初にある登場人物紹介は、どんな人が出てくるのかな(名前というより関係性やら職業やらの事前知識として)と…
『この世の喜びよ』井戸川射子 講談社 2023.1.24読了 去年井戸川射子さんの『ここはとても速い川』を読んでその文才に圧倒され、すぐに『この世の喜びよ』を購入していた。すでに芥川賞にノミネートされており、まだ未読であるのに芥川賞を受賞しそうだなと…
『fishy』金原ひとみ 朝日新聞出版[朝日文庫] 2023.1.23読了 金原ひとみさんの作品はここ1〜2年で読むことが増えた。昔はそこまで惹かれなかったのに、40代の今読むととても突き刺さるものがある。確実に綿矢りささんの小説の方が好みだったのに、今は金原…
『ロリータ』ウラジーミル・ナボコフ 若島正/訳 新潮社[新潮文庫] 2023.1.22読了 なんとなく敬遠して読んでいない人は本当に勿体無いと思う。私はこの『ロリータ』を読むのは2回めだけれど、やはり傑作だと感じた。ドロレス・ヘイズ(愛称ロリータ)をそ…
『キルケ』マデリン・ミラー 野沢佳織/訳 作品社 2023.1.19読了 ギリシャ神話は、ところどころのエピソードは聞いたことがあるけれど、ちゃんと読んだことはない。岩波文庫から『イリアス』や『オデュッセイア』が刊行されておりいつかは読みたいとは思うの…
『春』島崎藤村 新潮社[新潮文庫] 2023.1.18読了 島崎藤村著『破戒』を読んだのはいつだったかなと振り返ると、2年近く前だった。次は大作『夜明け前』を読もうと思っていたのに、さらっと一冊で読めるかと今回は『春』を選んだ。なんせ、まだコロナ明け(…