書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

外国(ハ行の作家)

『舞踏会へ向かう三人の農夫』リチャード・パワーズ|1枚の写真から

『舞踏会へ向かう三人の農夫』上下 リチャード・パワーズ 柴田元幸/訳 河出文庫 2021.6.28読了 2年くらい前だろうか、リチャード・パワーズさんの『オーバーストーリー』という装丁の素晴らしい単行本が書店にずらっと並んでいて、手にとったものの値段もま…

『グレート・ギャツビー』フィツジェラルド|夢と栄光と、孤独

『グレート・ギャツビー』フィツジェラルド 野崎孝/訳 ★ 新潮文庫 2021.6.13読了 アメリカの小説を読みたくなる時がある。ポール・オースターさんの作品にしようか迷ったが、この本を手に取る。かなり前に村上春樹さん訳の本を読んだけどいまいちピンとこず…

『郝景芳短篇集』郝景芳|現代中国人作家が気になってきた

『郝景芳(ハオ・ジンファン)短篇集』郝景芳 及川茜/訳 白水社 2021.5.12読了 中国系アメリカ人作家のケン・リュウさんが郝景芳さんの『北京 折りたたみの都市』を絶賛して英訳し、作品はヒューゴー賞を受賞した。ケン・リュウさんがこの作品を含め中国SF…

『タタール人の砂漠』ブッツァーティ|良い人生だったと思いたい

『タタール人の砂漠』ブッツァーティ 脇功/訳 岩波文庫 2021.5.10読了 現代イタリア文学の鬼才で、カフカの再来と呼ばれているブッツァーティさん。神秘的、幻想的で、不条理を描いたら右に出る者がいないと言われている。元々気になってはいて、堀江敏幸さ…

『香水 ある人殺しの物語』パトリック・ジュースキント|本から立ち昇るニオイ

『香水 ある人殺しの物語』パトリック・ジュースキント 池内紀/訳 文春文庫 2021.5.1読了 去年、瑛人さんの『香水』という曲が流行した。TVで歌う姿もよく目にした。サビの部分が頭から離れず、口ずさむこともよくあった。そんな日本人は多かっただろう。 …

『約束の地 大統領回顧録 Ⅰ 』バラク・オバマ|選挙戦と第1期めの任期|隠れた英雄を讃えよう

『約束の地 大統領回顧録 Ⅰ 』上下 バラク・オバマ 山田文 三宅康雄・他/訳 ★ 集英社 2021.4.24読了 発売されてすぐに購入していたのが、なんだか読むのが勿体ないような、心を落ち着けてこれに挑む準備をしてからにしよう、など思っているうちに2ヶ月くら…

『デイジー・ミラー』ヘンリー・ジェイムズ|恋愛に対するアメリカ的な価値観

『デイジー・ミラー』ヘンリー・ジェイムズ 小川高義/訳 新潮文庫 2021.4.10読了 ヘンリー・ジェイムズ氏の『デイジー・ミラー』が新潮文庫から新訳で刊行された。初めて『ねじの回転』を読んだときに、ジェイムズさんの紡ぐ物語世界に引き込まれた。ホラー…

『父を撃った12の銃弾』ハンナ・ティンティ|じっくり読みたい父子の物語

『父を撃った12の銃弾』ハンナ・ティンティ 松本剛史/訳 ★ 文藝春秋 2021.4.4読了 物語に引き込まれるシーンが、最初の章の終わりにある。12の銃弾痕が身体に残るルーの父親ホーリーは上半身裸になる。陽の光を浴びて踊る姿が、スローモーションとなり鮮や…

『1984年に生まれて』郝景芳|哲学的かつ文学的な自伝体小説

『1984年に生まれて』郝景芳(ハオ・ジンファン) 櫻庭ゆみ子/訳 ★★ 中央公論新社 2021.2.9読了 少し前にジョージ・オーウェル著『一九八四年』を読んだのは、本作を読むための事前準備行為としてだった。オマージュ作品とも言えるようだし、さすがに先に読…

『ママ、最後の抱擁 わたしたちに動物の情動がわかるのか』フランス・ドゥ・ヴァール/地球規模で考えよう

『ママ、最後の抱擁 わたしたちに動物の情動がわかるのか』フランス・ドゥ・ヴァール 柴田裕之/訳 紀伊国屋書店 2020.11.25読了 情動は感情とは別物であると著者は言う。「感情」は内面の主観的状態であり、自分の感情については言葉で伝え合う。一方、「情…

『キャロル』パトリシア・ハイスミス/頭の中は愛する人でいっぱい

『キャロル』パトリシア・ハイスミス 柿沼瑛子/訳 河出文庫 2020.11.16読了 先日読んだ『太陽がいっぱい』で、リプリー作品には続きがあると知り読もうとしていたのだが、先にこの『キャロル』を読んだ。当時この小説はパトリシアさん名義ではなく、クレア…

『素数たちの孤独』パオロ・ジョルダーノ/生きることが得意でない者たち

『素数たちの孤独』パオロ・ジョルダーノ 飯田亮介/訳 ★★ ハヤカワepi文庫 2020.11.8読了 ヨーロッパでは再びロックダウンが始まり、日本でも、ここ最近の感染者数の増加に不安が高まる新型コロナウィルスの蔓延。今年の初めに流行の兆しが見え始めてから、…

『郷愁』ヘルマン・ヘッセ/青春とお酒、そして本を読む時の気の持ちよう

『郷愁』ヘルマン・ヘッセ 高橋健二/訳 新潮文庫 2020.10.21読了 ヘルマン・ヘッセさんの処女作であり出世作でもある『郷愁』、原題は『ペーター・カーメンチント』で主人公の名前である。いつも通り新潮文庫の表紙は野田あいさんのイラストで、なんとも言…

『太陽がいっぱい』パトリシア・ハイスミス/他人に成りすます

『太陽がいっぱい』パトリシア・ハイスミス 佐宗鈴夫/訳 河出文庫 2020.9.16読了 ずいぶん昔のことだが、マット・デイモンさん主演映画『リプリー』を観た。当時はそのストーリーと残虐性に取り憑かれ、なんて面白い映画だろうと思った記憶がある。そもそも…

『森の生活 ウォールデン』H.D.ソロー/自然界で生きよ

『森の生活(ウォールデン)』上下 H.D.ソロー 飯田実/訳 岩波文庫 2020.9.11読了 ウォールデンとはアメリカ・マサチューセッツ州にある湖のことである。この作品は、約170年前にヘンリー・デイヴィッド・ソローさんが2年2ヶ月に渡りウォールデン湖畔で自給…

『ブルックリン・フォリーズ』ポール・オースター/希望を失わずに生きる

『ブルックリン・フォリーズ』ポール・オースター 柴田元幸/訳 ★ 新潮文庫 2020.7.25読了 文庫になるのを楽しみにしていたのだけれど、表紙を見て単行本と印象が違い少し戸惑ってしまった。単行本のジャケットは線画で描かれていて、、何というかもっとお洒…

『知と愛』ヘルマン・ヘッセ/相反するものは表裏一体

『知と愛』ヘルマン・ヘッセ 高橋健二/訳 新潮文庫 2020.7.7読了 今年の4月以降、ヘッセ作品を読みあさっている。一貫して言えるのが、人間が生きることの意味を説いていること。特に本作品は信仰・哲学的な面がなお一層強く現れている。 原題は『ナルチス…

『青春は美わし』ヘルマン・ヘッセ/野田あいさんのイラストもうるわし

『青春は美わし(うるわし)』ヘルマン・ヘッセ 高橋健二/訳 新潮文庫 2020.6.14読了 再びヘッセ氏の小説を読んだ。表題作『青春は美わし』と『ラテン語学校生』という二編の短編が収められている。どちらも、若く瑞々しい青春の香り漂う作品である。 「う…

『サンセット・パーク』ポール・オースター/過去に決着をつけていく群像劇

『サンセット・パーク』ポール・オースター 柴田元幸/訳 新潮社 2020.6.11読了 ニューヨーク・ブルックリンにあるサンセット・パーク(実在する地名らしい)のある廃屋に、4人の男女が不法滞在する。今までのオースターさんの小説と何か違うなと思っていた…

『春の嵐』ヘルマン・ヘッセ/自分の人生を振り返るとき

『春の嵐』ヘルマン・ヘッセ 高橋健二/訳 新潮文庫 2020.5.20読了 あまり日を置かず、またヘッセ氏の小説を読んだ。最近の私のお気に入りのヘルマン・ヘッセ本、先日書店で4冊まとめて買ったのだ。ほとんどが新潮文庫で手に入るからわかりやすくていい。 こ…

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』フィリップ・K・ディック/人間とロボットの違いは何なのか

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』フィリップ・K・ディック 浅倉久志/訳 ハヤカワ文庫 2020.5.14読了 ハリソン・フォード主演映画『ブレードランナー』の原作で、SF小説の金字塔であるあまりにも有名すぎる本作、私はまだ未読だった。映画も観ていな…

『デミアン』ヘルマン・ヘッセ/自我の追求

『デミアン』ヘルマン・ヘッセ 高橋健二/訳 ★ 新潮文庫 2020.5.10読了 はじめにヘッセ氏が語る「はしがき」がある。わずか3ページの文章なのだが、これがとても心に響く。はしがきに感動することなんて滅多にない。「すべての人間の生活は、自己自身への道…

『ガラスの街』ポール・オースター/ニューヨークをあてどもなく歩く

『ガラスの街』ポール・オースター 柴田元幸/訳 新潮文庫 2020.5.3読了 オースターさんのニューヨーク3部作のうち第1作目がこの『ガラスの街』である。主人公クインの家に、深夜に電話がかかってくる。「ポール・オースターさんですね?」クインはポールに…

『車輪の下』ヘルマン・ヘッセ/悲劇なのに清々しい気持ちになれる

『車輪の下』ヘルマン・ヘッセ 高橋健二/訳 ★★ 新潮文庫 2020.4.29読了 世界の古典名作を読もう、ということで『車輪の下』を読んだ。ヘッセ氏の作品は10代の頃に読んだ記憶があるが、何を読んだのかどんな話だったか全く覚えていない。この作品は、ヘッセ…

『幻影の書』ポール・オースター/小説の中で映画を観るような

『幻影の書』ポール・オースター 柴田元幸/訳 新潮文庫 2020.3.19読了 やはりオースターさんはいいなぁ。どこに連れて行ってくれるかわからないストーリーと洗練された文体(これは柴田氏の力によるところも大きいが)、流れる時間が読書の楽しさを充分に味…

『犯罪』フェルディナント・フォン・シーラッハ/読みやすいけどもっとスリルが欲しい

『犯罪』フェルディナント・フォン・シーラッハ 酒寄進一/訳 創元推理文庫 2020.3.9読了 2012年の翻訳部門本屋大賞1位の短編集で、作者のデビュー作だ。その後も彼の本は何冊か刊行されているのは知っていたが、読むのは初めてだ。11の短編があり、どれも犯…

『孤独の発明』ポール・オースター/孤独でないと物語は書けない

『孤独の発明』ポール・オースター 柴田元幸/訳 新潮文庫 2020.1.6読了 年末に読んだ『ムーン・パレス』に次いで、オースター2作目である。本作品は、作家として名を馳せる前に書かれたもののようで、初期の作品と言える。この物語は大きく2部構成になって…

『ムーン・パレス』ポール・オースター/何度も読み返したい本

『ムーン・パレス』ポール・オースター 柴田元幸/訳 ★★ 新潮文庫 2019.12.26読了 なんて心地良いんだろう。読んでいる時間が愛おしくなる。ポール・オースターの名前はもちろん知っていたが、実はまだ読んだことがなかった。もっと早く読めばよかった!こう…

『不倫』 パウロ・コエーリョ  / 不倫をする側とされた側、悩む人が多いのは

『不倫』 パウロ・コエーリョ 木下眞穂/訳 角川文庫 2019.3.31読了 私がパウロ・コエーリョさんの『アルケミスト』を読んだのは、読書の楽しさを知り、小説を貪るように読み始めた頃だったと思う。当時は翻訳された作品を読み慣れておらず、読んだ後も日本…